藤川VS小笠原フルスイング 06年球宴「素晴らしい軌道」オール直球の決闘劇
まるでマンガのワンシーンを見ているかのようだった。2006年、神宮で行われたオールスター第1戦の九回-。マウンドに上がった阪神・藤川球児は、ストレートの握りでボールを持った右拳を西武・カブレラ(当時)に向かって見せつけた。
その瞬間、スタンドが大きく沸く。予告直球勝負に、球場全体が固唾(かたず)を飲んだ。打席で腕ぶす球界No.1の長距離砲も、当たったら間違いなくスタンドインという迫力を醸し出す中、結果は1ボールから3球連続で空振りを奪っての三振。そして次の打者は眼光鋭く、背番号22ににらみをきかせた。
その当時、ミスターフルスイングの称号を手にしていた日本ハム・小笠原。当時を「オールスターはお祭りだからね。真っすぐで来るのなら、当たらなくてもいいからフルスイングでいこう。目いっぱいね。それぐらいしか考えていなかったね」と振り返る。
初球、151キロの直球に小笠原のバットが空を切ると、どよめきが起こる。球児の体が壊れそうなほどしなった状態から放たれたストレート、そしてフィニッシュ時に両足で踏ん張れないほどこん身の力でバットを振ったミスターフルスイング。まるで巌流島決戦のような、その空間に2人だけしか存在していないような“決闘”シーンだ。
「ストレートは伸びてくる、素晴らしい軌道ということが記憶には残っているね。本当に質がいいボールだった」と小笠原が振り返ったように、バットに当たってもファウル。最後はカウント1-2からの6球目、外角高めの152キロにフルスイングは空を切った。
くしくも、この日が26歳の誕生日だった球児。「(パフォーマンスは)イマイチやった。外国人選手やから怒るかなと思ったから」と明かしていた。
ただプロ野球の長い歴史の中で、名場面の一つとして今もファンの脳裏に強烈な印象を残し、語り継がれている。球児の火の玉ストレートと、ガッツのフルスイング-。あのシーンは今でも決して、色あせない。(プロ野球デスク・重松健三)