ナカジマジックの核心に迫る 26年ぶりの日本一を導いたオリックスの裏側は

 夢を叶えた瞬間、オリックス・中嶋聡監督(53)は両手で頭を抱え込んだ。こみ上げる感情。苦しみ、時に歓喜した過程がフラッシュバックする。顔を上げ、両手で三塁側ベンチをパチンと叩くと、苦楽を共にした同学年の水本勝己ヘッドコーチ(54)と熱く抱き合った。

 自身が現役選手だった1996年以来、26年ぶりの日本一。昨年は、肌寒いほっともっと神戸で延長12回の死闘の末に敗れ、ヤクルトの軍門に下った。あれから1年。同じような肌寒さの中、今年は頂点を極めた。

 マスクを外し、歓喜の輪が広がるマウンドへ。若月からウイニングボールを受け取り、リーグ優勝時、CSファイナルS突破時と同じ5回、宙に舞った。

 一方、球団史上初の2年連続日本一を狙ったヤクルト・高津臣吾監督(53)は一塁側ベンチ内で直立不動し、胴上げの光景を見つめていた。右翼スタンドに歩を進める指揮官の瞳は潤んでいた。アンダーシャツの袖口で目元を拭い、熱い声援を送り続けてくれたファンに感謝し、そして詫びた。昨年と真逆のコントラストだった。

 引き分けを挟んだ2連敗から4連勝で日本一に登り詰めた。何度も見出しに躍った『ナカジマジック』。阪神OBで、デイリースポーツ評論家の中田良弘氏(63)は、捕手併用制を採った中嶋采配に光を当てた。

 「一般的に強いチームって、捕手を固定してるって言われることが多いでしょ?でも、中嶋監督は伏見と若月を併用し続けた。ペナントレースでも、日本シリーズでも。勝った次の日に先発捕手を代えるなんて、すごく勇気のいることだと思うんだけどね」

 今季のオリックスの捕手スタメン試合数を洗い出すと、伏見が一番多く66試合。次に若月が52試合。頓宮が22試合、福永が3試合と続く。しかも、どの先発投手に対しても先発捕手を固定することがなかった。エース・山本も例外ではない。

 今シリーズでも4、5戦目に若月で連勝した後、6、7戦目は伏見にスタメンマスクをかぶらせた。投手出身の中田氏は言う。

 「投手の立場からすると、捕手が登板ごとに代わるっていうのはとてもやりずらいし、嫌なもの。投手それぞれに捕手との相性、配球傾向、あ・うんの呼吸ってものがあるからね。自分も現役時代は同じ捕手と組みたいと思っていたよ」

 不満を覚える声は決してゼロではなかったと推察する。ただ、限りなくその感情を封じ込んだのは、勝利が結びついたからだろう。勝てなければ、やっぱり捕手が-という逃げ道を作れたかもしれないが、白星が1+1=2以上の答えを持って、チーム力を押し上げた。

 「捕手出身の中嶋監督ならではの采配、起用なんだろうと思う。正捕手を一人に固定すると、監督、チームの方針をグラウンドで映し出しやすくなると思うけど、2番手と呼ばれる選手の伸びしろを小さくしてしまうというかね。併用制が伏見と若月の切磋琢磨につながっただけでなく、投手を育て、成長させることにもつながった。監督としての考え方にも一石を投じ、見事に結果にして実らせた素晴らしい方針、采配だったと思う」と中田氏。

 捕手の成長はもちろん、投手に対して、どの捕手と組んでも、常に自分の一番のボールを投げられるようにならなきゃいけないという意識を芽生えさせた“副作用”も大きい。

 第2戦で勝利目前の九回に同点3ランを浴びた阿部に第5戦でリベンジ登板の機会を与えた。初戦で本塁打を浴び、第3戦では3打点を許した村上に対して、徹底的に内角を攻めさせた。阿部は期待に応えてイニングまたぎに成功し、チームが3連勝を飾った4、5、6戦は村上を無安打に封じ込めた。

 日本一を決めた第7戦では、太田がシリーズ史上初となる先頭打者初球本塁打。これに関しても中田氏は「普通なら、初回の初球は相手の入りを見たいところ。次の打者、ベンチの選手にも今日の相手投手の調子を見させる意味でも。ただ、あそこで太田が積極的にスイングできたのは、失敗してもいいから思い切っていけという中嶋監督の後押しがあったはず」と言う。

 ミスを恐れて萎縮したプレーをさせては意味がない。積極的な挑戦、失敗であれば、次にやり返せばいいじゃないか。その場は与えるし、整えるよという安心感が、選手の背中を押している。

 リーグ連覇を経て、日本一を勝ち取った。ペナントレース最終戦では、勝ってなおかつ、ソフトバンクが負けなければいけないという条件をクリアした。今シリーズでは2敗1分けと追い込まれながら、破竹の4連勝で『てっぺん』まで駆け上がった。逆境をはね返した強さ。黄金時代到来を予感させる。

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