元プロ野球選手「500万円振り込んだら」有名企業の役員に? アスリートのセカンドキャリアとは
今年も多くのプロ野球選手がユニホームを脱ぐ。華々しい引退試合を用意され、指導者や解説者、タレントなどに転身できるのはごく一部の選手に過ぎない。アスリートのセカンドキャリアを支援するスクール「Athletes Business United(ABU)」学長の中田仁之氏に、実情などを聞いた。3回連載の初回は、引退直後の元プロ野球選手たちに舞い込んだ大企業役員就任の話から…。
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数年前のこと。相談者は20代の元プロ野球選手だった。
「500万円振り込んだら○○○○(某有名大企業)の役員にしてくれるって言われたんですよ。どう思いますか?」
相談を受けた中田氏は丁寧に聞き直した。実際は「500万円振り込んでくれたら(某有名大企業役員の肩書が書かれた)この名刺を差し上げます」と言われていた。つまり役員就任と思わせて500万円の名刺を買わせる詐欺、というわけだ。もちろんこの某有名大企業は、500万円の出資で役員になれるような会社ではない。
このときは未然に被害を防いだ。そして同時期、別の元プロ野球選手からも同じような相談を受けた。
「500万円振り込んで役員の名刺をもらったんですけど、出勤日とかの連絡が何もないんです」
こちらはすでにだまされた後だった。
「一般の人であれば仕事などを通じて社会経験を積んでいくうちに“この人は怪しい”という直感が自然と身に付いてくる。いろんな人と接することで、人を見極める力がついてくるわけです。でも元アスリートの中には、そういう直感が養われていない人もいる。スポーツだけを頑張ってきて、狭い世界で、出会う人も限られる。純粋で人を疑わず、だまされてしまう人は少なくないんです」
チーム構想から外れたり体力の衰えなどで現役を引退したアスリートのごく一部は、指導者や解説者、タレントなどに転身する。しかし大多数の元アスリートは一般企業への就職や起業など、他業種の職業を探すことになる。
アスリートに就職を斡旋(あっせん)する企業も数多くある。中田氏はABUの前身である日本営業大学を開校するにあたり、アスリートのセカンドキャリアに関して徹底調査した。そのとき出会ったある人物の言葉に憤慨したという。
「アスリートはおいしいですよ。就職先を紹介してもすぐに辞める。同じ人に3回は斡旋できますから」
元アスリートに就職先を紹介すれば、1人から3回分の斡旋料を得ることができるというわけだ。自身も大学まで野球を続けた中田氏は、元アスリートを物扱いする発言が許せなかった。調べてみると実際に多くの元アスリートが3年以内に離職していた。
就職先を紹介するだけでは、本当の支援とは言えない。できれば現役選手でいる間からセカンドキャリアをしっかり歩めるように教育した上で社会に送り出したい-という思いを強くするきっかけとなった。(デイリースポーツ・岩田卓士)