夏の甲子園初出場決めた死闘3時間29分、つないだ社の「全束力」 1回戦で初出場初勝利も
デイリースポーツ記者の心に残った今シーズンの試合、場面を振り返るオフ企画『一投一打』。アマ野球担当の井上慎也記者は、兵庫・社が創部74年目にして夏の甲子園初出場を決めた一戦を挙げた。同校野球部OBであり、7月28日の神戸国際大付との決勝(ほっと神戸)も取材。チームが掲げていた「全束力(ぜんそくりょく)」というテーマ通りの戦いだった。
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「高校野球兵庫大会決勝・社6-3回神戸国際大付」(28日、ほっともっとフィールド神戸)
3時間29分の死闘の結末に、両チームの選手が涙を流した。夏の兵庫大会決勝・神戸国際大付-社戦。三塁側ベンチは歓喜に沸く。延長十四回までもつれこんだ緊迫のシーソーゲームは、社の初優勝で幕を閉じた。
手に汗握る展開が続いた。二回に社が1点を先制すると、三回には神戸国際大付が2得点で逆転。五回には再び社が1点を奪って同点に。その後は、互いに一歩も譲らず延長十二回までゼロ行進。延長十三回から、決勝では大会史上初のタイブレークに突入した。
試合が決まったのは延長十四回だ。1死二、三塁で3番・福谷宇楽内野手(3年)が、追い込まれながらも外角低めの変化球に食らいついた。「抜けろ-」。スタンド、ベンチの思いを込めた打球は、外野の芝生に転がる。前進守備の二塁手のダイブも及ばなかった、2点適時右前打。さらに2死二、三塁では6番・勝股優太内野手(3年)が右前適時打で1点を追加した。そのまま逃げ切り、聖地への切符をつかんだ。
社が掲げていたテーマは「全束力(ぜんそくりょく)」。全員で束になって戦うことだった。例年、夏の大会でメンバーから外れた3年生は引退し、サポート側に徹する。ただ、今年は誰も引退しなかった。甲子園出場を信じ、わずかであっても残っていたベンチ入りの可能性を目指すことや、最後まで全員で、選手としてやりきる思いがあったからだ。
主将・後藤剣士朗内野手(3年)は「誰ひとり、文句一つ言わず、サポートしてくれた。苦しい思いも一緒にしてくれるから、団結力が強いんです」と振り返っていた。福谷は2点適時打後に両足をつって倒れ込んだほどだが、交代することなく勝股の適時打で生還。仲間の思いを胸に、最後まで戦い抜いた。
夏の甲子園では、1回戦で県岐阜商を相手に初出場初勝利も収めた。気力、精神力、体力。その全てをぶつけ合っての真剣勝負は、見ている人も熱くする。来年も新たにどういったドラマが誕生するのか。ワクワクしてしまうのは私だけではないはずだ。