「信任投票事件」もあった西本幸雄監督の本気度を知った元日トレ 3連覇の原点~元阪急長池徳士氏語る

 阪急ブレーブス(現オリックス)の4番打者で、本塁打王と打点王をそれぞれ3度獲得した長池徳士氏(80)が現役時代を振り返り、恩師西本幸雄氏に対する敬慕の気持ちを言葉にした。

 昨年12月2日。「Hankyu-ORIX OB総会」が兵庫県内で行われた。コロナ禍を経た4年ぶりの再開だったが、総会に出席した長池氏は時の流れを実感せずにはいられなかったという。

 「ああ…僕と山口(富士雄)さんだけになったんやなあ」

 阪急が2位西鉄に9ゲーム差をつけて、球団創設以来、悲願の初優勝を果たしたのが1967年。ヤングブレーブスの愛称でパ・リーグを席巻した年だ。

 米田哲也、梶本隆夫の両ベテランを中心にした投手陣とは対照的に野手陣は総じて若かった。

1(二)住友平

2(三)森本潔

3(左)ウインディ

4(中)長池徳二

5(右)早瀬方禧

6(一)石井晶

7(遊)山口富士雄

8(捕)岡村浩二

9(投)米田哲也

 これは1967年の開幕オーダー。投手の米田と外国人選手のウインディを除いてすべて20代。法大を出て2年目の長池(当時は本名の徳二で登録。現在は戸籍名も徳士)は明大卒の住友と同じ最年少だった。

 早瀬、石井、岡村、そして住友…ヤングブレーブスの戦友たちが次から次へと姿を消していく。「森本さんはOB会に来てないから分からない」という。寂しさと懐かしさが混在するOB総会でもあった。

 初優勝の味は今でも忘れない。前年5位。万年Bクラスの弱小球団が生まれ変わったように勝ち続けた。優勝を決めた西京極球場では、なだれ込んだファンの手で胴上げされた。

 「あのメンバーの中で僕が一番の若造やったけど、周りを気にせずに野球がやれたのも先輩たちが認めてくれたお陰。僕もちょっとは力になれたのかな」

 この年、4番に座り27本塁打、打率・281で打線を牽引した長池氏。ここから不動の4番、「ミスターブレーブス」としての地位を築いていく。

 ただ、振り返ってみると、西本監督の「チームを変える」という強い意思が結実したシーズンでもあったという。

 時を遡ること1年。長池氏が入団した1966年のシーズンオフ。西本監督自身が選手に対し、支持か不支持の選択を迫る「信任投票事件」があった。ルーキーだった長池氏は「意味がよう分からん」まま、○×方式の投票用紙に「○」と書いて提出したという。

 “腐ったリンゴ”を排除し、再出発する大きな契機となった一件だが、こんな強引な手法を用いなければならないほど、チームには無自覚で身勝手な振る舞いをする選手が存在した。

 「西本さんは“夜遊び”に対して、あまり厳しくは言わなかった。夜遅くまでマージャンをしていても。ただヨネさん(米田)や梶本さんに“飲みに行くなら若い選手を連れて行かず、自分たちだけで行け”とは言ってましたね」

 西本監督の頭には「打力さえ身につければ勝てる」という思いがあった。米田、梶本、足立を軸にした投手陣は強力。これに長池を4番に据えた打線が機能すれば何とかなる。チームの足を引っ張る“抵抗勢力”を取り除き、ようやく本物のチーム作りが始まった。

 年が明けた1967年1月1日。西本監督の号令に従い、西宮球場で自主トレがスタートした。

 集合場所となった左翼席下の室内練習場に集まった選手は長池を含む若手3人ほど。首脳陣は西本監督だけ。なぜか選手でもコーチでもない子連れのバルボンもいた。その後、徐々に参加選手が増えていった。

 「練習は強制ではなく“やりたいヤツは来い”という趣旨のものでね。暗くて狭い室内に数人ですよ。僕が入団して最初のキャンプなんか、昼過ぎには終わって(宿舎へ)帰ってたチームやからね。“プロってこんなに練習しないのか”と思ったもんです。でも2年目(のキャンプ)からの練習量はすごくて、チームがガラッと変わった」

 やはり強くなるには練習するしかない。

 「阪急が強くなったのはその練習量。西本さんは最後まで日本一になれず悲運の人だったけどオーラがあったし、チームを作るという意味ではナンバーワンでしょう。弱い近鉄も強くした。誰も特別扱いせず、すべての選手を平等に扱う監督でした」

 弱小球団から最強球団へ。その後のリーグ3連覇へつながる第一歩が、暗くて狭い室内での「元日トレ」だったという。それは西本幸雄の本気度を知る貴重な一日でもあった。

(デイリースポーツ/宮田匡二)

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