巨人・菅野を復活させた久保康生巡回投手コーチ 二人三脚で密着指導「いまは出口に向かっている。変わらなきゃいけないよ」

 「広島1-8巨人」(28日、マツダスタジアム)

 巨人の菅野智之投手(34)が、15勝3敗でリーグ優勝に貢献した。昨季4勝に終わった元エースだが、「復活させた男」がいることはあまり知られていない。久保康生巡回投手コーチ(66)。近鉄、阪神、ソフトバンクなどコーチを歴任した名伯楽は、「菅野再生」の命を受けて巨人のユニホームに袖を通した。「常識を疑え」「照明に向かって投げろ」。コーチ人生を懸けた二人三脚の密着指導が再起を支えた。

 真っ黒に日焼けした66歳には、仮住まいでささやかな楽しみがある。妻を大阪の自宅に残し、単身で続けるコーチ業。午前中からジャイアンツ球場で練習後、部屋に戻ってナイターのテレビ中継を付ける。焼酎グラスを片手に視線を向けるのは、教え子たちが1軍の舞台で見せる活躍。久保巡回投手コーチの1日だ。

 「横川も、赤星にしてもね。一緒にやった人たちの勇姿を見せられたらニコッとしてね。いやぁ、よかったなって思う。球団の財産を預かっているわけやからね。冥利(みょうり)に尽きるよ」

 原辰徳前監督(66)に請われ、巡回コーチとして23年に入閣した。肩書の裏には「再生コーチ」としての特命があった。

 「彼がフラッグシップなんだと。旗を持って走っているみたいなものだ。若手には一番の教材、生きた教材になっていく存在。だからこそ菅野をもう一度、立ち直らせる。もう一度、1本立ちさせることによって、このチームは全てが完結する」

 菅野再生=巨人軍の再生。原前監督に思いを伝えると「久保ちゃん、好きにやって。全て任せる」と返ってきた。最大の後ろ盾を得た頃、菅野は必死にもがいていた。右肘の張りで出遅れた昨春。直球は140キロ台まで落ちた。「このままでは終わる」。どん底にいたベテランに、久保コーチが声を掛けた。まだこの時、話は上の空だった。

 「最初の方は少し根気をなくしたけどね。彼は誰にも文句を言われない成績を残してきた。まだ稼ぎたい?って聞いたら、まだこれから稼ぎたいと返ってきた。なら、やろうよって。いまは出口に向かっている。変わらなきゃいけないよって」

 ケンカ上等、反発覚悟でストレートに伝えた。指導方針は18歳の新人でも、最多勝3回の菅野でも変わらない。「人には入られたくない牙城があって、それは老いも若きも一緒なんです。でも、僕もいろんな選手とやり合ってきて、必ず良くなるという自負もあった。変な人のため…変な正義感です」。目にシワを寄せて笑った。「じゃあ、どうすればいいんですか」。少しだけ耳を傾けた菅野に伝えたのは、180度の方向転換だった。

 「常識を疑え、全部疑えって言ったんです。野球用語には、溜めすぎるな、残すな、突っ込むな…といった言葉がある。それって本当か、どういう意味なのか。まずは常識と思っていたことを、疑ってみようやってね」

 ある日は球場の照明を目がけて投げるよう提案。「年齢を重ねた右投手には顕著に出る」という、腕の位置が下がって体の軸が横回転になっていた。斜め45度に向かって投げることで縦軸で投げるフォームに修正。「マウンドの傾斜を使うという言葉がある。その意味は正しいのか」と問うた。「下り坂のイメージだけど、本当は相反していかなきゃいけない。それが最大限に力が入る角度。上から投げ下ろすことで角度が生まれる」。この頃には力学的な視点を交えた助言に、素直に耳を傾けるようになった。

 常識を疑い、変化を受け入れたことで、シーズン終盤には150キロ台中盤を計測。菅野も「あのころは、野球人生が終わっちゃうと思っていた。大変なことも苦しいこともありましたけど、久保さんとの日々で乗り越えることができた」と振り返る。グラウンドでケンカ上等で意見をぶつけ、サウナでは野球談議に花を咲かせた。そんな日々が15勝の結果になった。

 「結局はね、彼の実力が高いんですよ」。完全復活を遂げた今も久保コーチには、伸び悩む選手に寄り添う日々が続く。「ただ、彼が活躍することによって、僕もそうやし、原監督も…みんなが救われた。もう、それが一番ですね。この経験が必ず、これからチームに生きてくる。彼だからこそ、後輩に伝えられるものができたと思うね」。菅野復活で成し得た伝統の継承と再生。名伯楽の根気と信念は、4年ぶりのV奪回に形を変えた。

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