長嶋茂雄氏を悼む 球界で最もファンを大切にした男
突然のことで本当に驚いた。巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が死去した。日本中の多くの関係者が喪失感にさいなまれている。
現役選手としてミスタープロ野球と呼ばれるほどの勝負強さと華やかさを持ち合わせ絶大な人気を誇った。監督としても松井秀喜を絶対的な4番に育てるなど、どうやって強く人気のある球団にするかに心血を注いだ。
新聞記者に対してはいつもサービス精神を忘れることはなかった。球場以外の場所で、ミスターを探すと高い確率でネタをつかめた。宮崎キャンプでも深夜に巨人の宿舎で記者が少人数で待っていると外出先から戻ってきた長嶋監督は立ち止まっておもむろに話し始め“一面級”の話題を提供してくれたこともあった。ミスターと報道陣の食事会の場で記者が自身の結婚を発表すると「ケーキを持ってきなさい」とスタッフに要請し、盛大に祝ってくれた。
“珍発言”や“迷言”も連発した。長嶋氏自身が大好きだったキャンプ地の宮崎ではアグレッシブで口調も滑らかだった。「(ムードが)暗いのは宮崎の“サン”(太陽)には合わない」と朗らかな笑みを浮かべる。その年がへび年だったため「今年はスネークの年」とニヤリ。「打球音とミットの音は野球人として心が揺さぶられますよ。気分爽快。快音だ」。野球が大好きだった。
ある年のキャンプ初日の2月1日夜には、宮崎・青島の料亭でお世話になる地元関係者と長嶋氏の食事会が開催された。お酒も入りほんのり顔を赤らめたミスターは持ち歌の「さざんかの宿」、「旅姿三人男」を熱唱したという。
マスコミや地元関係者の後ろには常にファンがいる-。そう自身に言い聞かせて行動し、発言していたように思う。だからこそリップサービスやファンサービスも欠かさず、巨人を人気もある常勝軍団にすることを念頭に置いて指揮を執っていた。球界で最もファンを大切にした男。私はそう思っている。心よりお悔やみ申し上げます。(元巨人担当、デイリースポーツ・伊藤玄門)




