「交流戦、広島８‐５ロッテ」（１５日、ＱＶＣ）

　ついに止めた！広島は、ブラッド・エルドレッド内野手（３３）が七回に２１号逆転満塁本塁打を放ち、ロッテを下した。３日の日本ハム戦（札幌ドーム）から始まった連敗は９でストップ。順位もリーグ２位を死守した。長いトンネルをようやく抜け出した野村鯉。ここから再上昇といきたい。

　笑った。泣いた。そして抱き合った。さまざまな感情が交差する。球場半分を真っ赤に染めた鯉党が、勝利に酔いしれた。苦しみの末に連敗を９で止めた立役者は、逆転満塁本塁打を放ったエルドレッドだ。

　一振りで試合を決めた。２‐５の七回。天谷、菊池、丸が築いた１死満塁。益田の、真ん中の変化球を迷わず振り抜いた。「フォークかスライダー。みんなが回してくれた場面で４番の仕事ができた。興奮したよ」。連敗ストップへ、カープを愛するすべての人の思いが乗り移った白球は、真っすぐに伸びてバックスクリーンを直撃した。

　「最高の形で試合をひっくり返した。カントリーが風穴をあけてくれた」と野村監督。値千金の逆転グランドスラムだ。

　３日の日本ハム戦（札幌ドーム）からチームの連敗が始まった。先発投手が試合序盤で崩れる。攻撃陣は得点圏であと１本が出ない…。投打で負のスパイラルに陥った。エルドレッドも９連敗中は３０打数３安打。深い迷路に迷い込んだ。

　指揮官の一言が主砲をよみがえらせた。この日の試合前。野村監督から声を掛けられた。「見逃し三振をしてもいいじゃないか。いいところで打ってくれさえすればいい」。責任感の強さゆえ、すべての打席で結果を残そうと気負っていた。「ケニー」と呼び、強い信頼関係で結ばれる野村監督の言葉。重い鎖がほどかれた。

　父の日だったこの日、銀のネックレスを身に着けてプレーした。エブリーちゃん（４）とケンジーちゃん（２）、２人の娘からプレゼントされた物だ。「これだよ」。誇らしげに首元を見せた背番号５５。まなむすめの優しさも力になった。

　ヒーローインタビューの後、スタンドから「ありがとう」の声が飛び交った。「カープファンを愛している。一番だ」。さらに「この勝ちは大きい。これでみんなもリラックスして試合に臨める」と目尻を下げた。そのバットで、もっと大きな歓喜の瞬間を‐。「鯉の季節」は終わらせない。