カープ捕手陣のリードの主体は「投手か」「捕手か」 野球爺のよもやま話
元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(71)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るいます。
◇ ◇
日頃、親しくしているTさんはかなりの野球通だ。カープの勝因、敗因だけでなく、技術的なことまで教えてくれる。例えば今年、序盤の話題を独占した堂林翔太のバッティング。Tさんの解説によると、その秘密は背番号にあるそうだ。
何が秘密かというと、球を待ち受ける際、これを投手に大きく見せるところが普通の選手と違うらしい。ということは、この選手の場合、センターの位置が22、23度ぐらい右にずれて、右中間の方向感覚になるよう。この独自性が分かったのが飛躍した一つの要因だという。
堂林の秘密はともかくとして、Tさんは優しい。これまでいつもニコニコしていたが、昨年あたりから時に怒りっぽくなった。これもカープのだらしなさと関係しているのかもしれない。
怒りの矛先が向かうのは、いつの場合も捕手のリード。Tさんの言い分を「風が吹けば桶屋がもうかる」式の三段論法で書けばこうだ。(1)打者のことだけを考えて、常にコースいっぱいの球を要求する(2)だから四球が増える(3)四球が増えるから余計、苦しくなって打たれる-。とどのつまりは「だからもっと、投手主体のリードをせんといけんでしょう」との主張である。
しかし、Tさんがいくら「捕手が悪い」と目をつり上げても、世間の皆さんは「今年のカープの捕手はいい」と言っている。何たってその顔触れがいい。石原慶幸を長男格に会沢翼、坂倉将吾がいるし、磯村嘉孝もいる。ファームに目を向ければ中村奨成もいるし、石原貴規もいる。これらの大半が打力を装備しているとあれば、球団史上最強どころか、球界でも歴代屈指の「捕手王国」、ならびに「カカア天下」になっていると私は踏んでいる。
「ではリードの方は?」とTさんに突かれそうなので、自宅にある野村克也さんの蔵書を調べたところ、「野村ノート」(小学館)という著作の中に似たような記述があった。それによると配球は(1)打者中心(2)投手中心(3)状況中心-の三つの組み立てに分けられるらしい。
(1)は相手の弱点を突いたり、反応を見て洞察したりする。すなわち技巧派投手の考え。
(2)は打者より投手の力が勝っていると判断した時の組み立て。
(3)は点差やイニング、走者の状況によって考える配球。
野村さんによると、配球とは要するに、この三つの組み立てを応用すること。ただ現在(2005年時)は、(2)の組み立てでよいという投手はほとんど見当たらないという。
とすると、Tさんの主張とは真逆。だが、言っている意味は分かる。例の三段論法でそれを記すと、(1)今年のカープは若い投手が多い(2)若いのだから技術的には未熟(3)未熟なのだから、自分の考えで自信がある球を力一杯投げさせるべき-。要するに、こうしたTさん論法の「投手主体論」は弱い人には優しい性格がゆえの「投手擁護論」なのだろう。
いずれにせよ、Tさんの愚痴から今回はつい、小難しい「捕手論」を書いてしまった。「捕手か」「投手か」の主体論はどちらにせよ、「鶏が先か」「卵が先か」の論争に似て、カープがだらしないからである。打線を含めて、「各員、一層、奮励、努力せよ」とのエールを送れば、「正直、それマジで古すぎる」と若者に言われるか。
◆永山貞義(ながやま・さだよし) 1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商高-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。
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