868本塁打 “世界の王”はステキな人 背中へ当てたら逆に感謝された~個性派左腕白石静生の記憶
広島、阪急在籍時に個性派左腕として活躍し、通算93勝を記録した白石静生さん(79)が17年間の現役生活を振り返り、「ON」との対決を懐かしがった。現役通算868本塁打を記録した王貞治に対しては打撃もさることながら、人間の器の大きさにも魅了されたという。
白石さんは、はっきり覚えていた。
「僕は8本打たれたから、ワンちゃんが打ったホームランの1パーセントほどやね。地方球場でも打たれて、バックスクリーンの板がゴソっと抜けたこともあったなあ」
広島時代、白石-王の通算対戦成績は71打数19安打18打点、8本塁打、打率・268。ヒットの半分近くが本塁打だったが、打率だけを見ると、まずまず抑えていると言える。
投球時、一本足打法の王に対して左腕投手の白石は、上げた右足のひざ付近を目がけて投げていた。
ここがウイークポイントだと言われていたからだが、「当ててはいけないと思うと、最初はなかなか投げられなかった」という。
慣れてくると、もう少し厳しく「太もも付近」を的にするようになったが、あるとき投げ損なって背中の右側へ当ててしまった。
そこにはクッキリと死球跡が残っていたが、しばらくたってから王は白石に、「当てられてから(悪かった)調子がよくなったよ」と笑って話しかけてきたという。
これが一流打者の懐の深さというものか。
白石さんは「王さんはスゴい選手なんだけどね。人間的にはいい意味で、ごく普通のいい人。ステキな人でした」と話す。
1968年のオフには、こんなこともあった。
巨人系テレビ局のスポーツ番組に出演するため、広島移籍初年度の山内一弘と2人で上京。スタジオで金田正一、長嶋茂雄、王の“ビッグ3”と一緒になると、いきなり大投手の金田が「お前だれや?」。知っているのにわざと聞いてきた。
王が「カネさん、カープの白石ですよ」とフォローしてくれたというが、この気遣いぶりもうれしかった。
こんな会話からも分かるように、結構キツいジョークを平気で言う金田だったが、嫌みな人間ではなく、「カネやんからアドバイスをもらった」こともあった。
「“もっと腹を張れ”とね。胸を張るという意味。そして下半身をグッと沈めて投げる。今のピッチャーは上体で投げるタイプが多いけどね。下からリードして投げる方がボールに粘りが出る。終速が落ちないんですよ。小学生もみな重心が高い」
現在、白石さんは郷里の徳島でリトルシニアの総監督として小中学生を指導している。そこでは“昔ながら”の野球観を生かして教えているという。
話はそれたが、白石さんは現役時代、「2回だけ打ってもらってもいい」と思って投げたことがあった。そのうちの1回は阪急時代の巨人戦。相手打者は王。
観衆2万人を集めた西宮球場でのオープン戦だった。調子の上がらない巨人は最下位をウロウロ。この試合も阪急が二回までに8点をリードするワンサイドゲームだった。
非公式戦でもあり、「せっかく球場まで見に来てるのに、これでは巨人ファンがかわいそうやと感じてね。“打たしたれ”と思って投げたら」本当に打たれた。
初球のカーブを見事に捕らえられ、右翼へソロアーチ。“世界の王”はやっぱり凄かった。(デイリースポーツ・宮田匡二)
◆白石 静生(しらいし・しずお)1944年5月22日生まれ、79歳。徳島県出身。投手。左投げ左打ち。鳴門から四国鉄道管理局(現JR四国)を経て65年度ドラフト2位で広島入団。1年目から先発、中継ぎで活躍。74年オフに大石弥太郎とともに渡辺弘基、宮本幸信、児玉好弘と2-3のトレードで阪急に移籍。主に先発投手として4連覇に貢献。82年限りで引退。プロ17年で通算93勝111敗2セーブ。防御率3・81。