山下智茂氏×広陵・中井監督対談【1】すごい補欠がいると思ったら主将だった

 星稜総監督の山下智茂氏(72)が全国の指導者を巡り次世代の高校野球を考える企画。今回は夏の甲子園で準優勝した広陵の中井哲之監督(55)を訪ねた。大会個人最多記録となる6本塁打など多くの記録を塗り替えた中村奨成捕手(3年)に、最初にかけた言葉は「広陵へ来るな」。27歳から古豪を率いてきた名将の理念を山下氏が深く掘り下げた対談。5回にわたってお届けする。

  ◇  ◇

 中井哲之監督(以下、中井)「山下先生とお話したかったんですが、エースとか4番に厳しく指導できない指導者が多いんじゃないかと思うんです。この子が打ってくれんと、投げてくれんと勝てんという子にはすごくやさしくしてしまう。それが将来的にその子をダメにしたり、高校野球をダメにしたり、野球をダメにしていくんじゃないか。そういう子は監督の意図をわかって、オレがこうしなくちゃいけないと行動しないといけない。松井(秀喜)君なんかはどうでしたか?」

 山下智茂氏(以下、山下)「僕も補欠にはやさしいけどレギュラーはどん底に落として、そこからはい上がってこいと言う。特に投手と4番には1時間ノックの後に別メニューで30分のノックを特別メニューでやってました。ところで、僕がこの夏感動したのは背番号18番の主将(岩本淳太投手)ですね」

 中井「この代の主将は3回変わっているんです。佐藤勇治から中村奨成、そして岩本。どの子も本当にいい子ですが、主将を変えたいきさつは春の県予選で西条農に負けたことです。冬にすごい練習してきたつもりだけど振り負けたのが悔しくて、もっと振ろうと自主練の時間の中じゃできないくらいのメニューを提示した。始めは根性でやるけど、毎日はなかなかできん。例えば監督が1000と言ったら500にしてもらおうと佐藤と中村は言ってくる。でも、1000と言ったら1000だと言うのが岩本。きれいごとは言うな、時間内にできんかったら朝起きてやればいいと言うのが岩本だった」

 山下「彼の動作、仕草を見ていてすごいなって思っていた。中村のレガースをはめて尻をポンとたたいて、すごい補欠がいると思ったら主将だった」

 中井「岩本は入学時には一番速い球を投げて将来性豊かな投手だったのに、ずっと故障があってベンチにも入っていなかった。遠慮があったのか僕の前ではあまり見せなかったけど、みんなの話を聞いていると一番男らしいし、中村や主将だった佐藤にもめちゃくちゃ怒るというから、こういうやつが主将をやらんとチームもしまらんと。控えの気持ちもわかるし、メンバーに伝えることもできる。すごい強いキャプテンになりました。優しさと強さを持っている。心のキャッチボールができる」

 山下「中村についても、私は甲子園の早い時期からファンになって今大会No.1だとデイリーの評論にも書いていた。すごい球を投げるし、マナーもいい」【2】に続く

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