山下智茂氏×広陵・中井監督対談【3】2007年準Vメンバーの「すごかった」ところ
星稜総監督の山下智茂氏(72)が全国の指導者を巡り次世代の高校野球を考える企画。今回は夏の甲子園で準優勝した広陵の中井哲之監督(55)を訪ねた。大会個人最多記録となる6本塁打など多くの記録を塗り替えた中村奨成捕手(3年)に、最初にかけた言葉は「広陵へ来るな」。27歳から古豪を率いてきた名将の理念を山下氏が深く掘り下げた対談。5回にわたってお届けする。
◇ ◇
中井哲之監督(以下、中井)「僕は現役の監督さんの中では一番厳しいと思います。でも、厳しさの裏側には愛情があるんです。子供が大好きで、彼らがいるから僕らも監督ができる。わが子と思って本気で接しないと。野球が大好きなんで、サッカーの人気があるけど、僕は高校野球でよかったと思う子供が増えてほしい」
山下智茂氏(以下、山下)「4年くらい前の練習試合の時に、うちの選手が雨の中でボールキーパーのところから転がさずにきちっと投げていたのを中井さんが褒めてくれた。あと、左翼のネットにぶつかって捕った選手、スクイズ成功したけど(手を)骨折していた選手にもすごいと言ってくれた。彼らはみんなレギュラーになった。練習試合でそういうことを言ってくれる監督さんはいない。子供を愛してくれているなと思った」
-選手はよく中井監督の男らしさを尊敬していると言うが。
中井「男の子は弱い人を守らないといけんと思う。野球も同じです。カバーリングもそうだし、投手が頑張っているから打ってやる、守ってやるとか」
山下「今の時代は男らしさ、女らしさというのが欠けているから日本がダメになっていると思います」
中井「僕は社会の先生なので、幸せになろうと思ったらどうする?って聞くんです。すばらしい女性に出会わないといかん。そのためにはすばらしい男性にならないと出会わんと。人生の話の方が覚えるかなと」
-今夏は決勝で涙を飲んだ。星稜、広陵とも悔しい負けを知る強さがある。
山下「僕の場合は負けて有名になる学校だから(苦笑)。でも、勝つのは一人しかいない。それに向かって生徒と一緒にチャレンジしていくことが一番大事。あきらめたら終わりですから。とことん最後まで男としてやり遂げるというのが大事なことだと生徒には教えてます」
-2007年夏の佐賀北との決勝で八回に逆転満塁本塁打を浴びて敗れた試合は印象深い。
中井「彼らがすごかったと思うのは、選手だけのミーティングで2番でよかったという人生を絶対送ろうぜと話していたこと。1番になるためにもっと努力していこうという話をした。後から聞いて、かっこええなと思いました」
山下「その後(大学、社会人を経て、9人の内)4人もプロに行ったんだね(野村、土生、上本=広島、小林=巨人)」
-佐賀北との決勝に敗れた後、広陵に帰って「甲子園もいいけど、広陵のグラウンドが一番じゃけえのう」と話したというが。
中井「一番行きたい場所は甲子園だけど、一番いいグラウンドは母校のグラウンドです。原点に帰る場所。行き詰まった子が行く場所は甲子園じゃない。母校のグラウンドですよね」
山下「松井も毎年正月にあいさつに来るけど、30分間はグラウンドのホームベースのところで瞑想にふける。1年間を振り返り、来年の抱負を考えているんだなって。教え子には卒業時に苦しい時にいつでもグラウンドに来いと言う。これ以上の苦しい練習はなかったんだから、お前ら何でもやれると。だからグラウンドはきれいにしておかないといけない」【4】に続く