山下智茂氏×広陵・中井監督対談【4】強打の広陵打線を支えた“カチカチバット”

 星稜総監督の山下智茂氏(72)が全国の指導者を巡り次世代の高校野球を考える企画。今回は夏の甲子園で準優勝した広陵の中井哲之監督(55)を訪ねた。大会個人最多記録となる6本塁打など多くの記録を塗り替えた中村奨成捕手(3年)に、最初にかけた言葉は「広陵へ来るな」。27歳から古豪を率いてきた名将の理念を山下氏が深く掘り下げた対談。5回にわたってお届けする。

  ◇  ◇

 -山下氏は長男の智将氏が星稜の部長、中井監督は同じく惇一氏が広陵の副部長と、ともに息子が指導者になった。

 山下智茂氏(以下、山下)「少年野球の頃から教えたことがない。自宅に6人預かっていた選手が素振りしたりキャッチボールしたりしているのを見て野球を勉強したのかな。星稜だけは来るなと言ったけど、星稜に来てしまった(苦笑)」

 中井哲之監督(以下、中井)「僕もそうです。僕は生徒から陰で『哲(てつ)』と呼ばれるんですけど、息子が(広陵に入学して)ここ(野球部)に来て自己紹介した時に『哲の息子の“小哲”です!僕は親との縁を切ってきました。だから、こんな僕に気を使わないでください。よろしくお願いします』と言ったんです。それからずっと親の縁を切ったまま、お父さんと呼ばれたことがもう8年くらいない。グラウンドでは監督、学校の中では先生。今は寮に泊ってて時々家に帰ってきても、先生って」

 山下「僕も監督、監督って。大学に入って初めて『おやじ、これから金がかかるけどよろしくお願いします』って。その時にはジーンと来たね」

 中井「人のお子さんに厳しくするなら自分の子供に思い切り厳しくしないとというのはありました。遠慮もないし。でも息子って子供の頃から広陵なら広陵、星稜なら星稜を見ているから“魂年齢”が違うと思いませんか。小学5、6年くらいから高校2、3年生くらいの思いとか強さを持っている気がする。ここに来たらそういう覚悟が必要じゃないですか」

 -惇一氏は大学を卒業して今年教員として広陵に戻ってきた。

 中井「能力がなかったら一番にやめればいいと思う。僕の下で務めてくれているコーチは育てないといけない。でも、この子は能力がなければやめさせるしかない。教員になるのが難しい時代。広島県は私学採用試験で点数を取れないと入れないけど、いろいろ言われることはある。でも、覚悟はあるみたい。中井の息子って言われるのが本当に嫌い」

 山下「一緒だね。でも、今夏の広陵打線がよく打ったのは(惇一副部長の)打撃指導もあったと聞いたけど」

 中井「“カチカチバット”というのがあって、たまたまはまったんです。それを作られた方が僕の教え子のおとうさんだった。僕はパワーバット(重りがついて筋力を鍛える素振り用バット)だと思っていた。でも、これはバットが最短距離で内側から出た時に頭の後ろで(2つの重りが)カチンと1回鳴ってすっと抜けきる。王さんとかイチロー君とか松井君も、天才は何も考えなくてもできること。でも、僕ら凡才はそれを意識してできるようになる。中村なんかはなかなかできないタイプだったけど、できるようになったら調子が悪い時に確認する道具にし始めた。インサイドアウトが完璧にできるとそう(カチンと)なる。例えばイチロー君はアッパーに見えるけど膝と腰は真っすぐ周っている。王さんは日本刀でわらを切っていたけど(普通なら)切れるわけがない。(インサイドアウトで)バシッと切るから切れる。(カチカチバットを使うことで)内側からできるようになる」

 山下「右翼や中堅に本塁打が打てる」【5】に続く

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