「センバツ史上最も劇的な幕切れ」の試合と言えば…
これまで幾多のドラマを生んできた選抜高校野球大会も90回目の節目の大会を迎える。そこで私、かみじょうたけしが特に印象に残った試合や名シーンを皆さんに紹介していこうと思う。
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センバツ史上最も劇的な幕切れだった試合は?と聞かれればこれを挙げるかもしれない。2004年の準々決勝、東北vs済美戦だ。
戦前は2試合連続完封勝利で勢いに乗る済美の2年生エース・福井優也投手と東北の絶対的エース・ダルビッシュ有投手の投げ合いに注目が集まった。
しかし、東北はエースではなく、背番号18の真壁賢守投手がマウンドへ。ダルビッシュ投手は前の試合で右肩に違和感を感じていた事もあり念のため、レフトでの出場だった。
だからと言って済美優位という訳ではない。なぜなら、真壁は前の試合も本調子ではなかったダルビッシュ降板後の3イニングを投げ、あの強打の大阪桐蔭打線を1安打無失点に抑えていた。
右サイドハンドから140キロを超える直球にキレのあるスライダーを併せ持ち、ダルビッシュがいる東北じゃなければ、どこの学校でも背番号1をつけていたであろうピッチャーだったのだ。
試合は東北が初回から大沼の3ランなどで得点を重ねた事で真壁も楽になり、さらに中押しに駄目押し点も加え6-2と東北4点リードで9回裏済美の攻撃を迎える。
ヒットと内野ゴロの間に2点は取られたものの、2死ランナーなしまで追い詰めた。ただ、済美も更に粘りをみせ、1、2番が連打を放ち、ツーアウトながら一、二塁とし3番の高橋勇丞がバッターボックスへ。すかさず若生監督はマウンドへ伝令を送る。
この時ダルビッシュはレフトの守備位置でシャドーピッチングを行っていた。この後の信じられない結末を知った上で、シャドーピッチングの光景をあらためて映像で確認するたびに胸が締め付けられる。
2球でツーストライクと追い込みノーボールツーストライクから更に2球のファール。
ストライクはいらない状況で、間違いなく外に逃げるスライダーで仕留めるものだと思っていた。しかし5球目にバッテリーが選んだのは外角へのストレート、そしてそれが真ん中高めに…
「カッキーン」
無情にも打球はダルビッシュの頭上を越えレフトスタンドへ突き刺さるサヨナラ逆転3ランホームラン!
さてこの試合で必ず議題に上がるのが「なぜダルビッシュに代えなかったのか?」である。
しかし、6~8回までを三者凡退に抑えていたり、2点は返されたもののツーアウトランナーなしになったり、3番・高橋をこの日ノーヒットに抑えていたり、そもそものダルビッシュの状態など、様々な要因がそれを踏みとどめさせていたのかもしれない。
むしろそれより、5球目のストレートの方に興味があった。そしてその答えを聞ける時が訪れたのだ。
3年程前になるか、ラジオのコーナーに真壁さんが電話出演してくれたのだ。スタッフさんが用意してくれた質問には目もくれず僕は長年の疑問をぶつけた。
答えは…。
「あの日一番いい球で勝負したかったからです」だった。
実はあの日の序盤にストレートが140キロ後半を記録し、自己最速が出たというのだ。高校生がサイドハンドからこの球速が出たなら、その球で勝負したい気持ちもわかる。
最後に「悔いがないといえばウソになるけどそれが僕の高校野球です」と語ってくれた。
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26日には出場校も決定する。今大会も様々なドラマがあるだろう。そんな彼らの駆け抜けて行く青春をひとつでも多く胸に刻みたいと思っている。