“ごり押し”呉昇桓の追加召集 「最も弱い代表」を救えるのか
1月11日、韓国ではWBC代表選手のミーティングとコーチ陣のスタッフ会議が行われた。その席で呉昇桓投手の追加招集が決まった。この報道に接したとき、筆者は「金寅植代表監督もついにごり押しを通したな」と感じた。
呉昇桓といえば14年、15年と阪神に在籍し、2年連続セーブ王に輝くなど日本球界でも存在感を発揮したが、オフに韓国の選手らとともにマカオでの不法賭博容疑でソウル地検の取り調べを受けるなど不祥事が発覚。阪神は残留交渉を打ち切り、呉昇桓は米大リーグ、カージナルス入りするという経緯があった。
メジャー進出を遂げた呉昇桓だが、韓国内での彼の立場は微妙だ。他の選手は罰金刑など刑の重さに違いはあれども罰を受け入れ、加えて林昌勇(元ヤクルト)などはシーズン半分の出場停止と野球界でも重いペナルティーを受けた。しかし海外でプレーする呉昇桓に国内リーグの懲罰は及ばない。実際には林昌勇と同じ出場停止処分が科せられているが、これは韓国球界に戻ったときに派生するもの。つまり呉昇桓は罰金形は済んでいても、球界での“禊(みそ)ぎ”を受けていないのだ。
そんな呉昇桓への世論の反発はことのほか激しく、今回のWBC代表選考においても、参加に反対する声が支配的だった。その風圧は金寅植代表監督も当然承知していただけに、11月の1次ロースター発表では呉昇桓の名前は外されていた。
しかし金寅植監督の腹の中に「呉昇桓」は常にあった。マスコミからの取材を受けるたび、呉昇桓の必要性を訴えた。いわば監督自ら口にすることで世論の動向を測っていたようにも思えた。言い換えれば、それだけ率直に、呉昇桓を求めていた。
背景には言うまでもなく、今大会の代表選手の物足りなさがある。エースの金廣鉉はトミージョン手術でWBCはおろか今季絶望。打線でも頼りにしていた姜正浩遊撃手(パイレーツ)が昨季オフに、ソウル市内で飲酒ひき逃げ事件を起こすなどトラブル、不祥事が続いていた。さらには金賢洙(オリオールズ)、秋信守(レンジャース)も所属球団がWBC出場を認めないという判断を下した。
これではチームを形成できない。金寅植監督は「これまでの国際大会で最も弱いチームになってしまうかも知れない」と戦力不足を嘆いたこともあった。だからこそ、盤石な抑えを任せられる呉昇桓は、是が非でも加えたかったのだ。冒頭、ごり押しという表現を用いたのは、そうした事情があったためだ。
無論、抑えが固まったとはいえ、それで万全とはならない。敗退すれば、非難のすべては監督に向けられる。その責任と重圧は、過去、幾度も代表監督を担ってきた金寅植監督なら、誰よりも自覚している。しかしそれを押してまで、非難覚悟で呉昇桓というピースをチョイスした。その度胸と腹の括り方は、他国の監督ながらも、さすがと言わざるを得ない。
今大会で「最も弱い代表」が、もし勝ち上がっていったとしたら。今回の監督の決断が大きく意味を持った。そう振り返ることになるかも知れない。