韓国プロ野球の観客動員が増える理由…ノリ重視?の開幕イベントとは
日本より一足早く、3月24日に韓国、台湾のプロ野球が開幕。公式戦についてはまた次の機会に記すとして、今回は開幕を控えた22日に韓国で開催された『メディアデー』について書いてみたい。
メジャーでは知られている、開幕前の報道関係への取材機会提供となる、いわばイベント。韓国でも2005年から始まったが、メジャーは監督だけが登場して取材対応するのに対し、韓国での特徴は選手まで加わっていることだろうか。さらに2010年からはファンも招き、よりイベント色が濃くなった。今年も400名のファンを招いたが、このあたりはNPBのセ・リーグと似た趣向か。
今年も10チームすべての監督と選手各2名の都合3名ずつが、会場となったソウル市内のホールに集結。ちなみに監督はスーツ姿が多く、ユニホームは選手のみ。それもホームとビジターのユニホームが1名ずつと芸が細かい。そしてそれぞれステージに設けられた席に座り、開幕への意気込みやシーズンの展望などを述べていく。またこの日に、開幕戦の先発投手も発表された。
質疑応答では各チームの監督に「優勝候補はどこか?」という質問も。無論、どの監督も自チームをあげるか、と思われたが意外にも現実的に昨季2連覇しているKIAタイガースを本命と口にする監督が4名もいた。これはリップサービスか。ただ自軍でもハッキリと言い切る人、他チームに遠慮しながら匂わせる人など、人柄とともに置かれているチームの戦力や去年の順位なども加味すると、その反応がファンの笑いや興味を誘ったようだ。
また、この『メディアデー』で恒例となっているのが優勝公約の発表だ。とはいっても、それほど重大な(シリアスな?)ものではない。昨季はKIAのヤン・ヒョンジョン投手が「女性アイドルグループ“ガールズアイドル”の曲でダンスを披露する」と公約し、優勝したので照れながらも実現させた。そんな他愛もないノリのものが例年多い。
これは優勝チームのKIAから昨季の順位で発表していく。ただ今年は昨季4位だったNCダイノスのモ・チャンミン外野手の発言から空気が変わった。
「来年(NCの本拠地は)、新球場が完成するので、開幕戦のチケットを選手たちで買ってファンに差し上げる」
ファン心理をくすぐる、なかなかいい公約だと思った。するとこの公約に反応する形で、各チームのボルテージがアップ。6位だったLGの主将パク・ヨンテク外野手は「(優勝すれば)24年ぶり。日にちに替えたら8760日ぶりになる。その数だけのボールにサインをして無料で配布する」と公言。すると9位に終わったサムスンは「みんな小さい公約だな。じゃあうちは球団の許諾を得た上で、希望するファン全員をスプリングキャンプに招待します」とエスカレート。挙げ句に最下位だったKtは「ではうちは、他チームの掲げた公約すべてを実現させます」と訳のわからない展開となってしまったとか。
ここまで来ると、さすがにファンやメディアからも戸惑いや実現性に対して懐疑の声が上がったが、会場は例年になく盛り上がったようだ。こうして記すと、ほとんどノリ重視のイベントに思えるが、メディア側としても意味がないわけではない。
例えば担当しているチームの取材は当然としても、こうした機会には担当外の監督、選手に対してインタビューができる。日本でいえば、スポーツ紙の巨人担当の記者が、阪神の金本監督に質問する機会などなかなか持てないが、こうした日なら可能なわけだ。
とくに韓国ではスポーツ紙、ネットとメディアの数は多いものの、記者そのものの数は少ない。必然的にひとりで2チーム、3チームの担当を兼ねるというケースも珍しくはない。そのぶん、日々の取材も深まらない弊害があるのだが、それでもこうした『メディアデー』で対面できれば、シーズンに入ってからの取材も円滑になる。
メジャーではオールスターの前夜祭の折に、出場する選手全員が一堂に会し、記者たちの質問に答える時間が設けられている。いわばあれに近いものを、開幕前にやっているというわけだ。そして見過ごせないのは、個別の球団での催しではなく、10球団すべてが参加してのイベントということ。
近年、リーグ全体の観客動員が右肩上がりの韓国プロ野球だが、リーグあげての一体感もまた、そうした要因となっている気がする。(スポーツライター・木村公一)