“井の中の蛙”にならない…なぜ台湾球団は日本との交流を進めるのか
3月24日に開幕した台湾プロ野球。その開幕戦は昨季の覇者、ラミゴ・モンキーズとリーグの老舗ともいえる中信兄弟エレファンツの一戦だった。
ラミゴといえば近年、ファン層を急拡大し、人気実力ともに台湾球界の中心に座るチームとなっている。そんなラミゴが2月28日、3月1日と2日間にわたり、札幌ドームで日本ハムとの親善試合『アジアフレンドシップシリーズ in北海道』を行った。これは日本ハム球団が札幌移転15周年と北海道が命名150年を迎える今年の記念イベントとして企画。毎年、50万人もの観光客が台湾から北海道を訪れるなどの縁もあり、ラミゴを迎えての親善試合となった。
結果は4-6、0-7とラミゴの連敗だった。内容はさておき日本の感覚からすれば、いかに文化交流の一環だったとしても、わずか2試合のためにわざわざ台湾からやってくる選手の労力、疲労を考えると、どれだけの「メリット」があったのか。ちなみにラミゴは2月に石垣島でロッテとも試合を行うため“遠征”していた。こちらは今年で3回目となる。
「確かに疲労という点では大変な部分もあったかと思います。でもそれを差し引いてもチームとして、選手としてメリットは多かった遠征だったと考えています」
こう語るのは、ラミゴのフロントで運営全般にあたっている礒江厚綺氏。
これまで台湾球界でも一部の代表選手が海外の、他国の野球に触れる機会はあった。他国には台湾とは異なる野球の文化があり、高い技術的なレベルがある。大会などの試合を通して、選手たちはそんな“異文化”を見て、感じ、台湾に戻って自分たちの野球向上に役立てられた。しかし代表になれないレベルの選手となると、そうした“海の外”を知ることはままならず、台湾内の野球しかわからない。
「その点、チーム単位でロッテさんや日本ハムさんと試合をすることで、代表レベルに届かない選手達も刺激を得られる。表現は変ですが“井の中の蛙”のような状態から抜け出せるというか」
更にいえば、台湾プロのキャンプは1月中下旬からおよそ2月末までと長く、なおかつ国内の1カ所でやっていてはマンネリ化もしてしまう。チームによってはキャンプなのに、自宅からいつも試合をしている本拠地球場に自宅から通っていることもある。そもそも温暖で韓国のプロ球団などのキャンプを誘致する気候だけに無理もないのだが、やはり“自宅通勤のキャンプ”では、もうひとつ意気も上がらないのが選手のホンネだ。
そんな背景もあり、中信兄弟は台湾プロ野球としては初めて、アメリカ・アリゾナでキャンプを張った。オフにチーム内でのトラブルがあり、主力選手数名を放出するなど落ち着かない状態にあったこともあるが、野球のメッカたるアメリカの施設を借りて練習や対外試合を行ったことは、選手にとって大きな収穫だったという。
球団関係者は「台湾を離れ気分転換できたことも意味ありましたが、練習試合とはいえアメリカの選手達と試合をする新鮮さ、そしてなによりも良かったのは、今までテレビなどでしか見たことがないアリゾナのキャンプ地で実際に自分たちが練習しているという高揚感、充実感を得られたことです」
そしてこの関係者はこう言った。
「こうした経験が、少しずつ自分たちの精神的なゆとりを生み、自信に繋がっていくんです」
あれは第1回のWBCのときだから、2006年。もう一昔以上前のことになる。
東京ドームでの第1ラウンドを控え、直前合宿として韓国代表が今のヤフオクドームで公開練習をしたことがあった。そのとき、ショートのパク・ジンマンという選手が、のちに同スタジアムの印象をこんな風に語っていたことがあった。
「ロッカーを出てベンチからグランドに出たら、あまりに照明がきらびやかで、まるでディズニーランドにいるような錯覚を覚えた。ああ、いいなあ。うらやましいなあ。こんなところでいつも試合が出来たら、自分ももっといいプレーが出来るだろうに」と。
今でこそ韓国にも他国に引けを取らない素晴らしい球場が増えたが、当時は老朽化した球場が多く、インフラ整備が喫緊の課題とされていた時期。だから、名手でもそうした羨望を抱いた。韓国の選手にとっては球場も、だから日本の選手も、当時は「見上げる憧れの存在」(当時の韓国球界関係者)だった。
しかしその後のいくつもの大会で真剣勝負を繰り返すことで、韓国は日本の選手の実力を肌身に感じ、憧れから、負けることもあれば勝つこともある、生身の同じ野球選手であることを実感していった。更には新球場建設ラッシュで施設面での気後れや羨望も失せた。
台湾プロ野球は、そのイメージに反して近年、国際大会で芳しい結果に恵まれていない。それをすべて海外との接点の不足とは言わないが、ラミゴや中信兄弟のような取り組みが、やがて選手たちからコンプレックスをかき消していくことにも繋がるのだと思う。
ラミゴの礒江氏はこう続けた。
「今後もラミゴは強い国のチームとの交流を続け、選手たちの意識ばかりではなくトレーニング方法や実力そのものも国際的なレベルに引き上げられたらいいなと思っています。これは現場のみならずフロント幹部からの考えなんです」
そうこうしているうちに、東京五輪の予選方式が発表された。本戦で活躍する台湾選手のプレーが見たい。(スポーツライター・木村公一)