韓国、台湾のドラフト事情 日本とはかなり違うシステム
日本もドラフトの季節となった。隣国である韓国、台湾はすでに指名が終わっている。韓国は6月と9月に分けて開催され、台湾も7月3日に行われた。国が違えばドラフトのシステムもかなり違う。
韓国では、まず縁故地から1名を優先的に指名できる『1次』と、通常のウェイバー制による『2次』の2回に分けるシステムを採っている。1次は1選手のみの指名のため告知発表だけと簡素なものだが、2次は近年、ホテルの大きな会場に全球団の首脳が集い、指名対象の選手も招くというユニークなもの。指名権獲得後は、その場でユニフォームに着替えて写真に収まるなどショー的要素も高まっている(ただ監督は来ない。ドラフトはあくまでも球団主導で行うもの。そうした印象が強いのが韓国だ)。
ちなみにこの2次ドラフトは例年、8月に行うのだが、今年は9月となった。これは今年、U18W杯などがあり、アマ側から「大会前に指名、入団が確定してしまうと選手の士気が下がる」との要望から、9月中旬にずらしたのだという。
なお今年は964名が指名対象となり、内訳では高校卒業予定者が754名、大学卒業予定者が207名、海外でプレーしているなどその他が3名とのことだった。そして10球団がキッカリ10名ずつ指名。計100名がプロ入りする資格を得たわけだ。
さて、この964名という数字。そして100名という指名数。日本と比較をしてしまうと決して驚く数字ではない。ただ韓国で本格的に野球をする学校が、高校で70校程度。大学でも30校に満たないといわれる。とすれば卒業生すべてが資格対象であるということか。その中の100名となれば、どうしてもレベルの問題は避けて通れない。毎度言われることだが、韓国の人口は約5千万人と日本の半分以下だ。逆に言えば、それだけの底辺にもかかわらず、メジャーに進出する選手たちをも輩出しているというは、“得る物”もまた少なくないからだ。
今季、最下位だったKtウィズに2次ドラフトの1巡目指名されたソウル高校出身の姜白虎(カン・ペクホ)選手は、契約金が4億5千万ウォン(約4500万円)。一般企業との比較は難しいが、年収1億ウォンとなれば有名企業の部長以上の待遇だ。もちろん、指名も下位では日本円で契約金400万円程度となるから、巨額を得られるのは一握りではある。とはいえコリアンドリームに直結する“仕事としてのプロ野球”だからこそ、親も積極的に投資して野球強豪校に入れたがるのだ。
この姜白虎はU18にも出場したが、投手としては今季の公式戦で4勝1敗、防御率2・40。奪三振13.50の右腕。打者としては打率4割4分2厘、2本塁打、32打点を記録。プロ入り後、二刀流の可能性は低く、打者専念になりそうだが、楽しみな素材に違いない。
7月に開催された台湾で、いの一番に指名されたのは高校生捕手の廖健富(リャオ・チンフー=高苑工商)だった。いの一番に高校生捕手というのは、史上初だ。それだけ投手が不作との指摘もあるが、大器であることに間違いはない。指名したラミゴ・モンキースは台湾の中でも、戦略として“ポジションにこだわらず、その年の良い選手を獲る”という方針。
一方、近年は下位に低迷し、世代交代を計りたい統一ラインオズは、1位で同じく捕手の陳重羽(チェン・チョンユー)を獲った。こちらは国立体育大学の大学生。面白いのは、統一は2位で陳重延(チェン・チョンユェン)という文化大の内野手を指名したことだ。名前が似ていることからもわかるように、ふたりは双子選手。台湾ではプロ野球で兄弟や親族がいることは決して珍しくないのだが、双子が同時に、それも同一球団に入団したのは異例中の異例だ。聞けば決して話題作りという考えはなく、あくまでも実力評価だったとか。
その証拠に、というわけではないが、ふたりとも9月1日に早くも1軍デビューしている。大学を卒業し、指名を受けているからシーズン終わりの9月にはプレー出来るわけだ。ちなみに兄の陳重羽は23試合に出場し、47打数14安打、打率3割4分0厘。「まだプロのレベルでは対応力に乏しく、課題は多い」(球団関係者)とのことだが、キャンプも経験せずにプロデビュー出来ているのも、日本から見れば興味深い。いや、中信兄弟エレファンツのドラフト3位、陳柏豪投手(西苑高中)は、高卒でいきなりプレーオフにもエントリーされ、短いイニングながらも重要な場面でリリーフ登板も果たしている。
ちなみに前出、陳重羽の契約金、年俸総額は780万台湾ドル。約3千万円ほどだ。
ユニークと言えば、台湾では卒業を待たず、2年生、3年生終了時にプロ入りするケースも珍しくない。その多くは国際大会で活躍し、いわば“恩恵”のような意味合いで指名され、中退してプロ入りとなるパターンだ。そもそも台湾は中国との関係から、国際社会では「国」として認められていない。そのため少しでも国際社会にアピールできる五輪やスポーツ競技会は政府のバックアップも大きく、国民の支持も高い。最近でこそプロの人気も国内で高まっているが、今でもナショナルチームの方に注目がいきがちだ。そのためだろう。五輪に野球種目があった頃は、「アマでは稼げないが名誉を得て、稼ぐのはプロに行ってから」などと言われる時代もあった。しかし、近年は徐々にプロの関心も高く、野球人気は盛り返してきた。
球界の隆盛は、いずこの国でも若手の台頭がなによりだ。韓国では100名が、そして4チーム制の台湾では、今年33名の選手がプロ入りする権利を得た。そのほとんどがすでに契約を終えて新たなユニフオームに着替えた。大きく育って欲しいと、切に思う。(スポーツライター・木村公一)