台湾の4割男「王柏融」 日本球界も注目の好打者が明かす打撃の神髄
先頃、台湾に行って来た。目的のひとつは王柏融(ワン・ボーロン)外野手に会うことだった。台湾プロ野球で2シーズン連続の打率4割を記録したスラッガー(2016年は4割1分4厘、17年は4割0分7厘)。無論、1990年にプロ発足後、初の快挙だ。そしてプロ4年目、25歳の今、彼の地の“球界の顔”に躍り出た存在になっている。そんな彼の打撃の神髄とは…。
◇ ◇
-ズバリ。なぜ2年連続で4割クリアできたのですか?
王柏融「別にシーズン当初に目標を立てていたわけではありません。それぞれの打席に立った時、1番いいパフォーマンスをしようと心がけているだけです。いい日もあれば悪い日もある。いい日はともかく、では悪い日、状態があまり良くない時でも、なるべくいい感触でミートできるようにというのは、気をつけていることです」
いわば1打席の集中。その積み重ねの結果が、4割という数字なのだ、と。ただ言葉にすれば耳心地よく聞こえる一言一言だが、それを実行できる忍耐、またその境地に達しているとも思える物言いには、少し驚かされた。まだプロ4年目の25歳なのに。王柏融は続けた。
「いい当たりでも野手の正面を突くこともあれば、当たり損ないでもヒットになることがあるのが打撃でしょう。ただ2年連続というのは、自分自身でも不思議でしょうがないというのが正直なところです」
そこでまた、あえてストレートに尋ねた。
-ヒットを打つコツってあるのですか?
王はちょっと戸惑ったような表情を見せたが、すぐにこう返してきた。
「強いて言えば対応力、反応力でしょうか。それがボール球だったとしても、うまく反応して捉えることができたら、ヒットにすることもできる。変化球に体勢が崩されても、フェアエリアに落とすことも反応力があればできることもある」
話は試合前の準備に移った。
「まずは相手投手、先発がどんな球を放ってくるか、データで予習します。台湾でもかなり細かくデータは取っていますから、それでイメージ作りをします。相手投手の持ち球、前回対戦した時の配球…それなら今日はどう配球を変えてくるか、変えてこないか。そうしたことを頭の中でイメージして膨らませていくんです。でも一番大事なのは打席での感覚です。打席に入り相手投手と対峙(たいじ)した時、ベンチでイメージしていたことをぜんぶ捨ててしまうことも時ある」
彼の言う「対応力」とは、こうした試合前からのイメージの積み重ねによるものなのだ。
「それでも状態が良くなかったり、カウントが悪くなると、マイナスイメージの方が強くなる(苦笑)。人間ですからね。少しでもプラス方向に持って行きたくても、なかなか行かない時もある。それはもうどうしようもないです」
いい時と悪い時。比率にしたら、どれくらいなのか?これもずいぶん乱暴だと承知の上で聞いた。王柏融も苦笑した。
「特に何%って数えたことはないですけど(苦笑)、状態が良くない時は2、3打席立つ中で“なんでこうなっちゃうんだろう”“こうならないようにするにはどうしたらいいか”と考えるようになってしまいますね。そういう状態はやっぱり良くない。考えずにバットが出る時が一番いいんで。ヤフオクドームで楽天の則本投手からホームランを打った時も、どんな球種か判別する前に自然とバットが拾ってくれた結果でしたから」
則本からの一発とは、17年2月28日、侍ジャパンが壮行試合として台湾プロチームと対戦した、その試合でのバックスクリーンへのホームランを意味する。この一発で、日本のプロチームのスカウトは、台湾の大王=王柏融のニックネーム=を記憶した。
台湾のプロは現在全4球団。相手は3チームということになる。それでいて1チームは年間120試合を消化する。1チームを相手で年間40試合。連日のように同じ相手と対戦している感覚になる。それでいかにして緊張感を、モチベーションを維持するのか。
「そうですね。2週間に1回は同じ相手と3連戦ですから、やはり気持ち的にもマンネリ化を防ぐことが重要になってきます。またどれだけいい成績を出していても、“外”の人からはそれを認めてもらえないところもあるのかなと思ってみたりも」
本人は謙遜するが、どれだけ特殊な環境でも120試合での成績は、やはり本物だ。
今回、初めて話を聞くが、台湾の4割打者は「いい時」よりも「良くない時」に時間と気持ちを傾け、打撃というものに相対している気がした。当然と言えばこれも当然に聞こえるかもしれない。しかし彼からは、その奥深さが感じられた。
「いい時より悪い時。そうですね、その通りです。いかにして悪い時を短くするか。いい時は何も考えずに打てる。しかし打てない時、調子の良くない時に、考えて、でも考えすぎずにバットが振れるか。これは難しいですけれど、大事なことだと思っています」
通訳を介しているとはいえ、語る言葉の内容は、まるで日本人選手のようだ。それだけの突き詰め方は、あるいは日本人選手以上かもしれない。
-5年後、10年後、どんな打者になっていたいか?
「数字としての目標はないですが、シーズン通して常に最高の打撃をする打者でいたい。そう思っています。野球って、一生かかっても勉強し尽くせないスポーツだと思うんで…」
マジメですね、と返すと、彼はこう返してきた。
「子供の頃は遊びでしたけど、今は仕事ですから。仕事に対する考え方、取り組み方はマジメに、全力で。それだけのことです」
そう25歳のスラッガーは言い切った。
◇ ◇
6月17日、彼の所属するラミゴ・モンキースが前期優勝を果たした。無論、彼の貢献は大だが、今季の彼は打率こそ3割4分7厘と“低迷”している。3割台半ばで低迷とは失礼な言い草だが、しかし彼の打撃からすれば、やはり不振のシーズンと言わざるを得ない。関係者の話では「本人がスイング軌道のイメージを、ちょっと錯覚しているのが原因ではないか」とか。
台湾メディアによると、球団の許可が出れば今季オフにも海外進出があり得るという。日本の報道でも、すでにNPBの数球団が調査対象としてリストの上位に掲げているとの情報も。実現するかどうか。それはわからないが、彼の求道者的な打撃観は、日本に来ることでより磨かれ、高まることは間違いないと思った。
台湾の若き打撃職人。王柏融の今シーズン後半に注目していたい。(スポーツライター・木村公一)
◆王柏融 台湾・ラミゴモンキーズ外野手。1993年生まれ。181センチ、90キロ。右投げ左打ち。