香川・東風平、覚悟と初心を胸に…新天地で全て出し尽くす
【香川・東風平光一投手】文=高田博史
開幕を前に散髪に行くのは、東風平光一にとって儀式のようなものだ。スッキリとしてスタートの日を迎えたい。開幕戦を想定したナイター練習が行われる日の午前中、高松に来てから初めて髪を切った。
「練習、楽しいなって思うようになりましたね。グラウンドに行くのが楽しい」
新入団の投手たちは皆、愛媛時代の自分を知らない。自然と先輩の動きに目がいく。簡単にミスしているようでは手本にならない。硬くなるのではなく、むしろ良い緊張感のなかで練習ができていると話す。
3年間、愛媛に在籍した。独立リーグ日本一(15年)の立役者である。昨年も開幕投手を任せられた。ビジターでの対香川戦(16年4月2日、レクザム)に先発し、見事勝ち投手となった。
だが翌朝、肩が上がらない。2月の合同自主トレ中から痛みがあり、なんとか開幕に間に合わせていた。結局、前期の登板はこの1試合のみに終わっている。
後期から復帰したが、今度はヒジを痛めた。本来の投球ができないなか、チームは前・後期優勝を遂げる。自分へのもどかしさと、情けなさだけが残った。
愛媛を退団することが決まり、もう野球を辞めるつもりでいた。電話の向こうで母・直美さんが言う。
「悔いはないの?それで辞めて、やり切ったの?」
あと1年だけやりたい。自分を必要としてくれる球団があるなら--。
チャンスをくれたのは香川だった。
「親だけじゃなくて、ガイナーズもチャンスくれて。可能性ないなと思ったら拾わないじゃないですか。自分のことを評価してくれてた人がいて、良かった」
任されたところでしっかり投げ切る。足りない部分を少しでも伸ばす。開幕を前に「もっと覚悟をもってやろう。1つ1つを大事に、丁寧に」とつぶやいた。この気持ちを最後まで。
「1日を全部、完ぺきにって言ったら難しいですけど。自分で可能な限り『やり切った』っていう状態で1日を終わらせる。それが積み重なって、やっと『やり切った』ってことなので」
覚悟とともに、4年目の“初心”を胸に刻む。