徳島・伊藤克 高校野球未経験、異色の右腕が防御率トップに
【徳島・伊藤克投手】文=高田博史
1月の入団会見で、伊藤克は「MAXは140キロくらいです」と答えた。
実は5キロ盛っている。周りから「そう言え」と言われたのだが、このとき最速値は135キロだった。中学時代に硬式で140キロを投げているから、まるっきりウソというわけでもない。
異色の経歴である。高校野球を経験していない。中学卒業以降は、クラブチームで2年間プレーした。
ここには甲子園出場、大学野球経験者、元NPB、元メジャー・リーガーまでいる。自分は経験値が圧倒的に少ない。だが「挑戦者なんだ」という強い気持ちを胸に徳島の一員となった。
「負けてもいいから、やってやろう!っていう気持ちが僕にはあって。オレより上でやってるんだから、打たれるのが当たり前だ。それでもいいから抑えてやろう!っていう気持ちはありました」
4月は中継ぎとして6試合に登板している。四球の多さが目立ち、安定感に欠けた。フォームが定まらず、腕も振れていない。
しかし、徐々に球場の雰囲気にも試合にも慣れていくなかで、コントロールが安定し始める。
初先発となった対高知前期6回戦(5月10日、JAバンク徳島)で初勝利。5日後、対愛媛前期8回戦(JAアグリあなん)で5イニングをロングリリーフし、2勝目を手にした。3勝を挙げて優勝に貢献しただけでなく、防御率トップの成績で前期を折り返している。最速値も147キロまで上がった。
先発が崩れたとき、いつでもマウンドに向かう準備はできている。ファンは正直だ。「ピッチャー、伊藤克!」のアナウンスと共に、スタンドが大きく沸くようになった。
「僕の名前が呼ばれた瞬間、ワーッ!となって。めっちゃびっくりしました。聞こえてます。すごくうれしいです。ほんとにうれしいです、あれは」
克なら、なんとかしてくれる--。そんな信頼感が生まれ始めている。
グラブの裏側には、赤い糸で「克己心」と刺しゅうが施されている。祖父・進さんからもらった「克」の文字と「自分に克て!」という願いを込めて。