【56】サイレンの由来は? 神事にも通ずる高校野球の風物詩
「日本高野連理事・田名部和裕 僕と高校野球の50年」
一般の方から時折寄せられる質問に、試合の開始、終了時のサイレンのことがある。試合の記録ならともかくこうした資料は乏しいので回答ができない。
第1回大会(大正4年、1915年)からサイレンを使っていたという説がある。当時は豊中グラウンドで、放送設備もなかったから周知のために使ったのではないかとみられる。僕たちの子どもの頃は近くの工場などの始業や正午に鳴り響いていた記憶がある。
夏の大会の第23回大会(35年)の甲子園ではサイレンを止めて進軍ラッパを使ったと記録にある。大会のひと月ほど前に支那事変がはじまったからだ。
今や甲子園球場のサイレンは、高校野球を象徴する風物詩になっている。
放送室を長年担当された山崎加代子さんに聞くと、開始時は球審がプレーを指示した時、終了時は両チームが整列して、ゲームセットをコールした時で、いずれもボタンを押して7つ数えているそうだ。
試合前のノックでは2、3秒にしているという。
最近では、阪神淡路大震災の後、選抜大会で各日の第1試合の前に地域の子どもたちに始球式をお願いした。マウンド近くで球審が「プレー」を宣告するのに合わせて鳴らしたが実際の開始時には鳴らさなかったところ、どうも締まりがない、と声が上がり、始球式では別のファンファーレを流すことにして元に戻した。
一方、63年から政府が、8月15日の終戦記念日に戦没者追悼式を行うことになり、甲子園でも「国民全部が加わる祈りと追悼の式にする」と賛同、試合を中断して正午に黙とうしている。この時は30秒間響き渡っている。
サイレンの語源にギリシャ神話のセーレンという魔女の話がある。美しい歌声で沖をゆく船に呼びかけ、近付くと殺してしまうという恐ろしい怪物で、上半身は人間、下半身は魚とも鳥とも言われる。
ある時、秋に行われている明治神宮大会中にサイレンの話題が出た。「なぜサイレンを鳴らすのだろうか」と問うと、神宮外苑の幹部は「神事を始める時と終えた時、神職が警蹕(けいひつ)と言われる『ウォー』という声を発するが、試合前後のサイレンはこの警蹕の代わりだと思う」という解釈を示された。
神宮関係者の説だが、試合を神事と考えると何となく納得する。
今、終戦記念日の黙とうでは毎年表彰される『育成功労賞』受賞した指導者たちに本部席前で黙とうしてもらっている。戦没者の追悼と併せて世界の平和を希求してもらっている。平和だからこそこの大会ができるからだ。