【82】用具を大切にする気持ち 日本野球が世界に誇れるものの一つ
「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」
高校野球の現場では個人の用具、チームの備品の区別なく常々大切に扱うよう指導者や先輩部員らが指導している。
高校野球連盟の事務局が加盟校の練習会場を訪問することはあまりないが、毎年国体開催予定地の視察で、練習会場に指定された学校を訪問する仕事がある。
ある時、秋田国体を前に地元の県立高校を訪れた。冬季の練習用か、立派な室内練習場が整備されていた。
もちろん練習会場としては申し分なかった。
ふと室内練習場の入り口に目をやると野球用具が整然と並べてあった。
金属製バットが、20本ぐらいラックに立てかけられていたが、よく見るとメーカーの種別ごとにマークも向きをそろえて並べられていた。思わずうなってしまった。
プロアマを問わず日本人選手が海外に行ったとき、ベンチ内をきれいに使用することに定評がある。恐らく高校野球時代の体験が、無意識の行動になっているように思う。
高校野球の伝統校と言われるチームは、用具の管理やグラウンドの整備方法は長年の間に培われたものがあると思う。
そしてもちろんその用具を大切に使うことが大事なのは言うまでもない。
かつて阪神タイガースなどでプレーした新庄剛志選手が古いグラブを大切に使っていた話はよく知られていた。彼の派手なプレーからはあまり想像できないが、敬意を持った。
元箕島高校野球部監督の尾藤公さんと用具の話をしたことがある。
最近のグラブは守備位置ごとに機能性が追求され、ずいぶん高品質になっている。
高校生たちは、高校向けではなく、より高級なプロ野球仕様のものを求めるという。
そういう時代で指導してきた尾藤さんは、部員がグラブを買い替えるときは必ず今使用しているグラブをチェックしていた。
まだ使える状態だと買い替えは認めなかった。十分に使いこまれたグラブになって「よし。では親御さんにお願いして買ってもらいなさい」と許可した。
連盟事務局で勤務を始めてまもなく、英語の勉強に迫られた。そこで米国で発刊されているスポーツの専門誌「スポーツイラストレイテッド」を定期購読した。その中でグラブの特集企画があった。その見出しは、「Glove dose not spell without Love(愛なくしてグラブは綴れない)」。
用具を大切にすることはこれからの人生の生き方にも通じるものがあるように思う。