【95】歯・口の外傷予防対策 野球競技に適したマウスガードの研究
「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」
日本スポーツ振興センターに届け出があった後遺障害で中学・高校の部活動では残念ながら野球部の事故がもっとも多い。
そのうち目と歯の事故が8割を占める。どちらも損傷すれば生涯を通じて大きな支障となる。
日本体育協会では、2013年に公認スポーツデンティスト制度を立ち上げ、15年から資格認定事業を始めている。
第2期の認定を受けた大阪歯科大学保存治療学科の吉川一志准教授は、十数年前から春夏の全国大会出場校に「歯の保存液」を提供してくれている。
歯に衝撃を受けて抜け落ちた歯は、歯根部分を触らずにこの保存液に漬けて24時間以内に治療すれば保存可能という。これまで甲子園の試合中と期間中の練習で3例あり、保存治療が成功している。吉川先生の父君(故人)が歯科医で高校野球の審判員だったご縁で貢献いただいている。
スポーツデンティストではスポーツにおける歯と口腔内のけがの治療や予防について専門的知識を習得し、スポーツ界への貢献を目指している。
一方、日本学校歯科医会(川本強会長=本部東京・市谷)では、スポーツ外傷防止普及事業を立ち上げ、昨年から2年間の計画で、マウスガードの装着体験を通した歯・口の外傷防止方法の実証実験が行われている。
埼玉県の川越工業高校と浦和学院高校野球部員に協力してもらって、マウスガードを実際に装着してもらって歯科専門医による安全教育と装着後の感触を調査している。
調査には明海大学の安井利一学長や東京医科歯科大学の上野俊明准教授らが両校に数回出向いて指導している。
守備練習などで顔面に衝撃を受けることが多いが、マウスガードは歯の破折や口腔内のけがから守る役割が期待されている。ボクシングやラグビーなどでは着用が義務化されているが、野球では近年使用が散見されるがまだ普及は進んでいない。
その理由は、装着時の違和感と話しづらいということのようだ。マウスガードは既製品でお湯の中に漬けて軟らかくしてから自分の歯型に合わせるタイプの簡易型と歯科医師が調整するカスタムタイプがある。
専門医によれば、カスタムタイプでは微調整をすると違和感や話しづらいという不具合もかなり解消される実例が、先の実態調査の中間報告で明らかにされている。
現在モデルチームの両校で8割の部員が「常時使っている」「時々使っている」のが現状だ。野球競技に適したマウスガードの使用が普及し、歯の事故減少が期待されている。