打つだけじゃない。阪神・岡田彰布守備・走塁コーチ(45)は、サラリと言った。「キャンプから、練習しとったからな」。ミスしても、慌てることはない。四回、一死満塁。二塁走者の藤本はミスを認めたが、スタンドのため息は、矢野の好走塁で歓声へと変わる。九回には、2年連続盗塁王・赤星が快足を飛ばし、1人でダイヤモンドを駆け抜けた。連勝で開幕カード勝ち越し。泥臭い勝ち方もまた、強さを感じるもんだ。
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阪 神 |
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横 浜 |
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勝:ムーア1勝
S:ウィリアムス1S |
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今年の虎はひと味違う。息つく間もない“足技”の連続で、2年連続の開幕カード勝ち越しを決めた。「頭を落としても、こういうゲームをできるというのは大きい。運がええわ」。指揮官も思わず自画自賛した機動力。新生タイガースの新たな武器のお披露目だ。
1番・今岡の右飛に二塁走者・藤本、三塁走者・矢野がタッチアップのスタートを切るが、三塁コーチの岡田守備・走塁コーチが制止。しかし、大きく飛び出した藤本の姿に右翼・佐伯から送球を受けた一塁・ウッズは、遊撃・石井へ送球。そのスキを突いて矢野が本塁へ生還、勝ち越した。
「キャンプでずっと練習していたプレーや。3試合目で出してしまった」。岡田コーチは苦笑しながらも“してやったり”の表情を浮かべた。「ウッズが背中を見せていた時点でいけると思った。(点は)取れる時に取っておかないと」とは矢野。ウッズの緩慢なプレーを見逃さなかった。
一方の藤本は「結果的にああなってよかった」と自身の“飛び出し”が生んだ貴重な追加点に胸をなで下ろした。春季キャンプで繰り返されたトリックプレーは、体に染みついていた。意図的に仕掛けたサインプレーでなくとも、偶然が生んだ必然の結果だ。
7番・矢野の投ゴロに二塁走者アリアスが思わず飛び出した。若田部からの送球を三塁・古木が後逸し、ファウルグラウンドへ転がる間にアリアスが本塁へ滑り込んで生還。続く藤本の適時打で勝ち越した。
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恐怖の8番だ!開幕3連戦10の4と大暴れ、この日は決勝打を放った藤本 |
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先頭の2番・赤星のセーフティーバントが三塁線へ。ファウルにしようと三塁・古木が打球を見送るが、ライン際に止まって内野安打。赤星は続く金本の打席で二盗。金本の二ゴロの間に進塁し、4番・浜中の遊ゴロで本塁へ生還をした。
相手の息の根を止めた赤星は「自分の役割を最後にできた」と、胸を張った。ち密な計算に裏打ちされたダメ押し点だった。ノーサインの絶妙なバントについて岡田コーチは「芝で(打球が)転がらないと分かっていた」と、今季導入された人工芝のバウンドの悪さが計算ずくだったことを明かした。遊ゴロの間の生還にも「浜中とデニーとの相性ならボテボテしかない」という予想がハマった。
「(九回の1点は)メチャクチャ大きい。あのタイミングで行けるのは赤星しかいない」と星野監督。開幕戦の失策で黒星スタートのきっかけをつくった赤星だが、すぐに汚名返上した。
「先は長いんですから。まだ137試合もある」。手応えがあるときほど、指揮官はニヒルに振る舞う。長いペナントレースが始まったばかりだからこそ価値ある“足攻勝利”。18年ぶりのVへ、勝利の方程式は1つじゃない。(船曳陽子) |