今季初の２ケタ得点で３連勝、そして単独首位。この激勝を呼んだのは、悩み抜いてきた男・浜中おさむ外野手（２４）の一振りだ。七回、１８打席目の初安打が右前にポトリと落ち、広島を突き放す２点適時打になった。４番打者の重圧から解き放たれたハマちゃんに「おめでとう」そして「もっときばってや」の１面だ。

阪　神 ０ １ ０ ０ ０ ０ ５ ０ ４ 10 広　島 ０ ０ ２ ０ ０ ０ ０ ３ ０ ５ 勝：藪１勝 Ｓ：ポート１Ｓ 本塁打：矢野１号

４番浜中が右前に今季初安打、初タイムリー

　たった３試合が、とてつもなく長かった。「開幕４番」の看板も、とてつもなく重かった。「苦しかった。変な当たりばかりだったから。久々にシンに当たりました」。開幕から１８打席目。スコアボードに“Ｈ”の文字が点灯した。猛虎の４番・浜中が、ようやく産声を上げた。

　開幕カードで音なしに終わったトラウマを、戦いの場を移しても引きずっていた。初回、一死一、二塁の場面で空振り三振。三回の２打席目は二ゴロに終わった。

コイキラーは今年も健在７回２失点で今季初勝利を挙げた藪

　六回には金本を一塁に置いて無死から併殺となる二ゴロに倒れる。守備でも三回にシーツのフェンス際の右越えの飛球をグラブに当てながらこぼした。記録は安打となったが、逆転のきっかけをつくってしまった。「調子は悪くない」と努めて前向きに振る舞っていた浜中の表情が、回を追うごとに暗く沈んでいった。

　きっかけは、仲間が与えてくれた。七回。そこまで打線は広島の先発・佐々岡に４安打。１点差を追って、ナインはベンチ前に円陣を組んだ。

　藤本、赤星の適時打で１点の勝ち越し。金本が１１球粘って四球を選んだ。二死満塁の場面で４番・浜中。もう立ち止まっていられない。気迫が乗り移ったように、佐々岡の初球をたたいた打球はつまりながら右前へポトリと落ちた。

七回に右前に逆転打を放った赤星

　佐々岡をノックアウトする２点適時打。九回には無死一塁から中前へ２安打目を放ち、夜空を見上げてフッと息を吐いた。「１本出たし、次のヒットも出たので気が楽になった。１本出ると全然違うから」。この先には、明るい道だけが開けていると信じた。

　たった１人特打を行った３１日の練習後、田淵チーフ打撃コーチは、浜中を食事に誘った。“和製大砲”としての英才教育は２年目に入った。しかし、師匠から弟子が食事に誘われたのは、初めてだった。「三振してもいいから思い切りいけ」とシンプルな言葉で励ましてくれる師匠の言葉が、浜中の心に染みた。

　この日朝、「首位決戦や」と冗談めかして宿舎を出発した星野監督は試合後、「首位？アホか」と言い放った。浜中の“４番継承”と同時に、チームは単独首位に立った。星野阪神２年目の野望が、真のスタートを切った。（船曳陽子）