花冷えの甲子園の夜空に、まばゆい太陽が光り輝いた。阪神・藤田太陽投手(23)が、今季2度目の先発で6回無失点、天国で微笑むおばあちゃんに捧げる自身本拠地初白星で、延長の末敗れた前夜の悪夢を花吹雪とともに吹き払った。甲子園に今季初めてこだました六甲おろしが心地よい。
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中 日 |
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阪 神 |
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× |
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勝:藤田1勝
S:− |
本塁打:− |
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近いのに遠かった。手が届きそうで届かなかった。今季初勝利は、うれしい甲子園初勝利だ。スタンドから沸き起こる太陽コール。太陽もチームも、そして虎党も、この勝利を待ち望んでいた。
6回4安打無失点。結果を見れば完ぺきだが、調子自体は決してよくなかった。
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球児が両助っ投が完封リレー!八回登板のウィリアムスも吠えた |
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「バックを信じて無心で投げました」。何度もピンチを背負った。五回の二死一、二塁のピンチ。ここで迎えたアレックスの打球は、快音を残して左翼を襲う。しかしその軌道の先には、まるで糸でつながっていたかのように金本が。これだけではない。ピンチで浴びた痛打のことごとくが、野手の正面を突いた。8人の野手、そして見えない何かが、太陽を守っていた。
「おばあちゃん、行くよ―」
走者を背負うたび、帽子の裏に書き込んだ「不動心」が揺らぎそうになるたび、ボールに向かってつぶやいた。
昨年12月3日に老衰のため亡くなった祖母・松井きくさん(享年80)の存在が、太陽を支え続けた。幼少のころから慕い続けた大好きなおばあちゃんのために、どうしても勝ちたかった。
「ラッキーというのは、われわれの商売では必要なことや」と試合後の星野監督。この日の白星の原因が運だけではないことを、誰よりも知っている。そして「もっとインコースを突けば幅が(投球に)広がる」とも。この右腕に多くの勝ち星を計算しているからこそ、次への宿題を課すことも忘れなかった。
達川バッテリーコーチも「今年の太陽は、ボールに気持ちが入っとる」と絶賛。魂の94球に最大級の賛辞を贈った。
前夜の本拠地開幕戦は悔しい黒星。バルデス、クルーズ、関川…。かつての虎戦士の喜ぶ姿が、その悔しさを一層募らせた。しかしそのうっぷんを、一夜にして晴らす快勝劇。そして開幕から4カード連続の勝ち越しにも王手をかけた。この日の太陽の熱投は、淀みかかっていたチームの流れを変えた。
この日の試合で投げたボールを、バッグの底にそっとしまいこんだ。「仏壇に供えようと思って…」。天国のおばあちゃんに捧げる今季初勝利。優しい目の奥には、既に次戦への闘志がみなぎっていた。(松下雄一郎)
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