阪神・星野仙一監督(56)が、鬼になった。首位決戦第1R。4失点の藪に、二回、代打を送ったのが反攻の合図だった。用兵に次々と応えた選手たち。とどめは五回、浜中の自身2本目となる8号満塁弾だ。28打点、8本塁打の堂々2冠王がいれば、鬼門・ナゴヤドームも怖くない。
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阪 神 |
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中 日 |
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勝:柴田1勝
S:− |
本塁打:桧山4号、浜中8号 |
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もう苦い過去が頭をよぎることもない。浜中の顔には、屈託のない笑みが浮かんだ。「初めて打てたので。うれしいです」。息を弾ませながら、ストレートな感情を言葉に乗せた。あしき印象が残る、ナゴヤドームで初めて一発を放った。それも勝負を決める、グランドスラムだ。
値千金だった。3点リードで迎えた、五回一死満塁。山田竜を突き放す、絶好のチャンスで、若き主砲のバットが虎党に歓喜を呼び込んだ。今季初の5連勝、首位をがっちりキープした。
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乱調の藪を二回であきらめ7人をつぎ込む執念の継投で勝利をもぎ取った星野監督 |
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カウント1―0からの2球目。紀藤が投じた142キロの速球を思い切り、叩いた。打球は高々と舞い上がる。「入るとは思わなかった。犠牲フライの感触だった」。決して会心のスイングではない。それでも左翼席に届いた。滞空時間の長いアーチ。それは「師」である田淵コーチの現役時代を彷彿(ほうふつ)とさせる、一発でもあった。
昨年8月9日。ダイビングキャッチにいった際に、浜中は左手中手骨を骨折した。そして、約1カ月半もの戦線離脱を余儀なくされた。「嫌なイメージはあります」。故障以来となるナゴヤドームの試合に、思い出したくない記憶がよみがえってきた。だが、すべてを自分の力で振り払った。
「チームの重責を背負っていることを肌で感じながら、常に挑んでいます」。
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三回から登板の柴田は2回を抑え自身3年ぶりとなる白星 |
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星野虎の「4番」である。立ち止まってはいられない。まして首位攻防戦。チームの顔を任されている自負が、忌まわしき思いを封じ込めた。いきなり初回に4点のビハインド。だが、そこから1人ひとりが役目を果たして逆転した。だが、序盤の攻勢に自分は加わっていない。ここで打たなきゃ、男がすたる―。ダメ押しとなった満塁弾には主砲としての「意地」がこもっていた。
2試合連続のアーチとなった8号は、ラミレス(ヤクルト)に並ぶ、トップタイ。28打点はリーグの単独トップに躍り出た。堂々の「二冠王」である。「打点は今年のこだわりですからね」。試合後。澄んだ瞳で、そう言い切った。もう迷いはない。ナゴヤの地にも「区切り」をつけた。勝利を伝えるために、ただその身をタテジマに捧げてゆく。それが4番、それが浜中である。(岡本浩孝) |