ど真ん中に「20」の大文字が座っています。その周囲を子供たちの笑顔が躍っています。T・ムーア投手(31)が快投。「あと60勝以上や!」とV目標を宣言した闘将。2003年5月5日―。決して忘れない「虎ども」の日です、はい。
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勝:ムーア5勝
S:− |
本塁打:矢野3号 |
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ツルツルにそり上げた頭に、独特のヒゲである。愛きょうある風ぼうは、まるで漫画に出てくるキャラクターだ。しかも強くて、たくましい。お立ち台に上がったムーアは、まさに、スタンドに詰め掛けた子供たちにとっての「ヒーロー」だった。
5月5日、こどもの日。昨年もこの日に勝利を収めていた男は、アメリカにはない特別な休日の存在を知っていた。
「親の言うことをよく聞いて、勉強も頑張ってください」
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スタメンでも神様!初回に先制2点タイムリーを放った八木 |
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子供たちには素直に聞けないはずの言葉だが、マイクを通じてムーアに言われれば、この日ばかりは黙ってうなずくしかない。ゴールデンウイーク最終日。最高の感動があった。子供たちだけじゃない。みんな、ムーアが大好きだ。
文句の付けようがない投球だった。MAX141キロ止まりの速球を、より速く見せる鋭い変化球、抜群の制球力があった。「暑かったからカウントを早く整えて、打たせて取ろうと思った。プラン通りだったよ」。走者を出しても慌てない。際どいコースをボールと判定されても冷静だった。すいすいと、ツバメ打線を料理した。
ムーアは帽子のひさしの裏に「B(be) A PRICK!」という言葉を刻んでいる。「嫌われろ!」という意味だ。マウンド上で頭に血がのぼりやすい性格。そんな自分を戒めるために記した。「(来日)2年目だから、精神的にも落ち着いて投げられている」と本人は語るが、不断の心掛けが、相手に嫌がられる投球の支えとなっている。
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11試合連続安打を放った金本は三回、アリアスのタイムリーで一塁から生還
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わずか106球。3安打を許しただけ。三塁を踏ませぬ完封勝利は、チームに両リーグ最速の「20勝到達」をもたらした。阪神では74年以来、実に29年ぶりの快挙。ムーア自身も負けなしの5連勝で、登板した6試合はすべてチームが勝利している「無敗神話」も継続中だ。「これ以上、望めないスタートだね」。ムーアの顔からも、自然と笑みがこぼれた。
こんなゲームを見せられれば、虎党でなくてもVへの期待が膨らんでくる。「まだあと、60勝以上せないかんやろ。まだまだや」。星野監督の口からも、ついに意欲的な言葉が発せられた。日増しに深まっていく確かな手応えは、もう隠せない。
「自分の子供にも、いいプレゼントになったよ」。ムーアは最後に、こう言った。だが愛息たちに、虎党に最高の贈り物を届けるまでは、まだまだ息はつけない。目指すはペナントの「ヒーロー」。優勝に日付を入れた「阪神の日」をつくるまで、その左腕を振るっていく。(岡本浩孝) |