これはもう優勝しかない。阪神に今季初めて訪れた大きな危機。4番・浜中おさむ外野手(24)が右肩負傷退場。ここで立ち上がったのが代わって4番に入った選手会長・桧山進次郎外野手(33)だ。同点打に勝ち越し打…。浜ちゃんの代役というにはあまりに鮮烈な輝きを放った桧山の活躍で貯金14、2位とは6・5差。大独走の気配だ。
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広 島 |
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阪 神 |
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勝:井川6勝
S:ウィリアムス12S |
本塁打:アリアス9号 |
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誰も帰らない。当然だ。待っていた男が、最高の形で復活した。みんな知っている。お立ち台のヒーローが、どんな思いでベンチに座っていたか―。同点打と勝ち越し打を独り占めして今季初の猛打賞。スタンディングオベーションの一塁側スタンドに右手を上げた桧山は、ライトスタンドにも両手を上げる。そして最後に、聖地の土に一礼した。
「変な感じです。ハマちゃんのケガで外野に回って、変な気持ちやった」。きっかけは突然やってきた。二回に4番・浜中が四球で出塁。けん制球で帰塁した際に右肩を負傷し、そのまま退場。「ヒー、用意せい!」。指揮官の声が一塁ベンチに響く。
そして1点を奪われた直後の四回、赤星の内野安打と盗塁などで一死三塁の場面で打席に入った。「ネクストバッターズサークルからバッターボックスへ向かう間、すごい緊張感に襲われた」。しかし、33歳の選手会長の表情がルーキーのように凍りついたのは一瞬だった。
「ファンの声援に自然と勇気づけられた」。2球目。佐々岡の内角直球を右翼前へ運ぶ同点適時打。再び許したビハインドを取り戻した六回、一死三塁の場面では、2番手・西川から中前へ勝ち越し打を放った。七回には一塁・新井を吹っ飛ばす強襲安打で猛打賞を完成させた。
試合前の三塁側室内練習場では、マウンドの半分以上手前に据えた打撃マシンから出る超スローボールを黙々と打つ桧山の姿があった。「緩い球をしっかり打つには、きちんとした打ち方ができないとダメ」。昨季までは確認程度に取り入れていた基本作業を2週間近く続けてきた。
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同点の五回、一度は勝ち越しとなるホームランを放ったアリアス
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「このままで終わらないつもりだった。みんなに迷惑かけたのは、単に技術が未熟だったから」。スタメン落ちした今月5日から頭にあったのは“原点回帰”の思いだけだ。
1人乗り遅れていた選手会長を、指揮官は「これで“乗車”できた」と出迎えた。出場が微妙な浜中に代わる4番について田淵チーフ打撃コーチは「(4番が)ケガをしてもスッと出られる同じような(レベルの)選手がいる」と“4番・桧山”も構想に入れている。
今季6度目の3連勝で貯金は14。「いいきっかけになった。何とか上昇していきたい」と桧山。着々と進む首位固めの柱は、たくましくなって戻ってきたこの男が担っていく。(船曳陽子) |