甲子園は、君を忘れていなかった。「代打・浜中」のコールに、一番の大歓声が飛んだ。内角球のバットをへし折られた3球目。それでも、向かって行った。4球目。執念が乗り移った打球は、三遊間を破る。決勝タイムリー。ケガで控えに甘んじていた“元4番”が、横浜戦9連勝を決めた。
|
|
横 浜 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
|
3 |
阪 神 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
2 |
1 |
0 |
× |
|
4 |
勝:安藤3勝S:ウィリアムス15S |
本塁打:− |
|
|
|
代打浜中は、ファンの力強い後押しに応え左前に勝ち越しタイムリー |
|
称賛の嵐に、銀傘が揺れる。見たこともない風景。ヒーローもさすがに興奮を隠せない。「代打で出て、お立ち台に立つのは初めてなので、おかしな雰囲気がありますね」。鳴りやまない浜中コールに、思わずほおを硬直させる。主役にふさわしい舞台は、必ず用意されているものだ。
3―3と同点で迎えた七回、二死一、三塁。片岡の代打で登場した。「なんとかランナーをかえして、アピールしないといけない立場なんで」。その燃えたぎる闘志には、バットも耐え切れなかった。福盛が投じた3球目、139キロ直球にバットが真っ二つに折れた。
ベンチに代わりのバットを取りに戻る場面を、ネクストバッターズサークルから八木が見ている。「代打は難しいですよ。最近は八木さんの気持ちが分かるんです」。前日にそう話していた浜中だが、代打に納得はしていない。“定位置”に戻るためにも、結果を出すしかない。
5球目、またも打球は鈍い音を残したが、遊撃手・内川が飛びついても捕れなかった。バットを折り、詰まりながらの当たり。それでも気持ちで上回っていた分だけ、遠くまで飛んだ。値千金の決勝適時打。左翼に抜ける当たりを見て、一塁上で2回、3回と手をたたいた。
四回からベンチ裏で素振りを始めた。20日の広島戦。一塁への帰塁の際に右肩をねん挫。それまで45打点を挙げていた「4番」は、それ以降、24日のヤクルト戦で代打で打席に立ったのみの“控え”に甘んじていた。
六回、ネクストで待ったが、井川の続投でチャンスが回ってこなかった。「気持ちが高ぶりましたね。あそこに行くだけで体が熱くなる」。そんな姿に、星野監督は反応した。「打つと思ったよ。雰囲気があった」。1回のチャンスをものにしたことに、喜ばないはずがない。横浜戦では球団初となる9連勝。貯金も今季最多の「17」に膨らんだ。
とはいえ、浜中の進む道は平たんではない。自らの故障後、4番に座る桧山が好調だけに「結果を出して、出番を取り戻すしかない」と言った。バッグに付けた3つのお守り。4番復活を約束するかのように、揺れていた。(鶴崎唯史) |