心憎いばかりの投球術に、伊良部の歩いてきた「道程」を見た。1球1球に強烈な意志を込め、今季最多の140球を投げきった。両リーグ最多タイの13奪三振で9日以来の6勝目。防御率もリーグトップに躍り出た。2位・巨人と差を「8」に広げた快投が、初夏の甲子園を熱く焦がした。 |
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横 浜 |
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阪 神 |
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× |
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勝:伊良部6勝
S:− |
本塁打:今岡3号 |
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完投勝利を挙げた伊良部は「タイガース通算100勝」の星野監督と握手 |
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慎重を期して矢野を呼び寄せた。マウンド上での長い打ち合わせ。その直後の140球目は145キロの快速球。そして最後の141球目に選んだのは、落差のある134キロのフォークだった。1点差を守る九回二死一塁。鈴木尚をこの試合13個目となる三振で仕留めると、伊良部は大きな息を一つ吐き、ようやく笑みを浮かべた。
「タイトなゲームだったので、行けるところまで行こうと思った。声援は非常に励みになります。あと1球コール?忘れられないですね」
4万人の大歓声が沸き返る中、お立ち台に立った。心地よい汗が額を伝う。阪神入団後、初めて試合を完了させて星野監督と握手した。何とも言えない熱い手のひら。その感触が残る手を、スタンドに向かって大きく、高々と上げた。
初回、鈴木尚の三振がエンジン全開の合図となった。二回のウッズ、コックスと合わせ、3者連続三振。漂いだした奪三振ショーの予感をなぞるように、ドラマは進む。
五、六、七回と2三振ずつもぎ取るハイペース。中村にソロを浴びた三回以外は、毎回奪三振で手玉に取った。内外角に決まる直球、切れ味鋭いフォークに、矢野のミットが快音を残す。4月18日、横浜戦の11を上回る13個は、日本球界復帰後最多、そして今季両リーグ最多タイとなった。
トレーニングメニューも自ら判断する。バランスを取り戻すためにはどうしたらいいか―。スピードを上げるには、どのようなトレーニングが適しているか―。前田トレーニングコーチは「最近は伊良部から相談を持ちかけてくることが多くなった」ともともと高かったプロ意識に、さらに舌を巻く。勝利は既定路線のうちでもあった。
完投こそが、今のチームには何より大きい。疲れの見えだしたリリーフ陣に“休日”を与え、30日からの巨人戦に突入できる。「完投の意識?…多少はねえ」。短い言葉に集約されたが、本人も充実度は分かっている。
9日以来の6勝目。防御率もリーグトップに立った。今季5度目の4連勝で貯金20にリーチ。世界一と称した甲子園で、伊良部は最高のシナリオを用意していた。(鶴崎唯史)
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