小飛球となった赤星のバントを福井が弾いた瞬間、勝利の女神はトラに微笑む。怒とうの14人攻撃で11点。2点を追う九回、久慈の左前打で幕を開け、アリアスの決勝3点打、そして金本知憲外野手(35)の250号ダメ押し3ラン―。うん、優勝できる。阪神は優勝できるぞ!
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阪 神 |
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巨 人 |
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勝:谷中3勝
S:− |
本塁打:矢野5号、関本1号、金本6号 |
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完膚なきまでにたたき斬る。まさに非情の一撃だ。宿敵のベンチが水を打ったように静まり返る。史上45人目の250号記念弾。観客の拍手の意味を知ったのは、祝福の花束をもらってからだった。「ホームベースについてから気がついた」。金本は、照れ笑いした。
「覚えがない」という1イニング5打点。巨人を倒すために、タテジマを着た。闘将・星野の気概にほれて、子供のころからの夢をかなえた赤ヘルを脱いだ。宿敵から負うビハインドは、虎にとってカンフル剤でしかない。それを証明した。
奇跡の舞台は、2点を追う九回だった。先頭は久慈。指揮官の下で巨人を倒すために戻ってきた男が、まず右前打。今岡が続いて無死一、二塁の好機をつくる。2番・赤星の送りバントは投前の小フライ。あわや併殺の当たりに、ダッシュしてきた一塁・福井がフェアグラウンドでグラブに当てて落球だ。無死満塁。打席に金本が入った。
2―8と大敗した前夜は無安打。この試合でも4打数無安打と決して好調の波に乗っているわけではない。カウント1―3からの5球目、143キロ速球を左前へと運ぶ同点打。煮えたぎっていたマグマが、噴火口へと近づいた。代打・浜中が敬遠されて一死満塁。アリアスの勝ち越し打で完成した今季23度目の逆転劇が、まだモノローグだとは誰も気づかなかった。
関本の2ラン、打者一巡の久慈が左中間二塁打で、2度目の口火を切った。赤星の適時打で10―4。もはや勝利は確実だった。しかし、二死一、二塁から最後の、そして最高の一矢が放たれる。バックスクリーン右への豪快3ラン。金本が打ち立てた記念碑を、三塁側ベンチはただ見送るしかなかった。
広島時代に背負った“不動の4番”の看板。しかし、27歳までレギュラーの座をつかめなかった。プロ入り直後から広島市内の自宅の庭にネットを張り、1日500球から1000球近く打ち込みを続けてきた。「アホなくらい振っていた。12球団で一番練習しているという自信があった」と振り返る。
星野監督が若手の手本に挙げるオフのトレーニングで、休みは大みそかと新年4日までの5日のみ。「レギュラー獲りへ焦っていたからじゃない。すべては3、4年後のためだと思っていた。4年目に結果を出して“これだ”と思った」。積み重ねてきた250本のアーチには、しっかりとした土台がある。
どんなに貯金を重ねても、星野監督は「まだ足りない」と手綱を緩めることはない。それでも「この巨人3連戦で勝ち越せば、この強さは本物だと思えるはず」と金本は言う。18勝6敗で終えた5月。真の“猛虎魂”をこれから見せつける。夢はまだ、途中だ。(船曳陽子) |