浅学非才の身には思い浮かびません。神様を超えるものって何だろう…。阪神・八木裕内野手(37)が今季初のスタメン4番で4安打&5打点。逆転サヨナラ負けを喫した巨人戦での悪夢をきれいさっぱり払しょくし、チームの貯金を再び「19」に戻しました。神様よりえらい―。やっぱり、八木様だ。
|
|
中 日 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
3 |
1 |
1 |
|
5 |
阪 神 |
1 |
1 |
2 |
0 |
1 |
1 |
0 |
4 |
× |
|
10 |
勝:井川7勝
S:− |
本塁打:− |
|
|
|
地元倉敷マスカットスタジアムで先制タイムリーの八木 |
|
降り注がれた大歓声が心地いい。帽子を脱いで2度、3度、八木はスタンドを見渡して、大きく手を振った。生まれ育った故郷で受けるヒーローインタビュー。これまでに味わったことがない感慨が、その胸に押し寄せた。
「地元ということで、リラックスして打席に入れました」
こう声を張り上げると、詰め掛けた3万人の虎党たちから、またひときわ、大きな拍手がわき上がる。今季初めて座った「4番」で見せた最高のパフォーマンス。すべては慣れ親しんだこの地が、新たな活力を与えてくれたからに相違ない。
チャンスは突然、やってきた。アリアスがウイルス性腸炎で欠場。「どうせ使うなら、4番に持っていこうというコーチの発案」(星野監督)で、昨年8月14日の横浜戦以来となる打順での出陣が決まった。
「プレッシャーはあったよ。4番が打てなくて負けたと言われたくなかったしね」
たとえ「代役」であっても、野球人としての意地がある。まずは初回。二死二塁の先制機で142キロ速球を三遊間に運んだ。少し詰まった当たりはサード・渡辺が差し出したグラブをすり抜け、左前に到達した。地元ファンから送られた喝さいが、重く縛られていた心を軽くする。さらに熱度を帯びさせた。
三回一死一、二塁では右前にはじき返す。五回にも一死二塁から左前に快打。3打席連続タイムリーだ。第4打席は凡退したが、八回一死満塁では、体勢を崩されながらもまたまた左前に運んだ。90年4月26日の広島戦以来、自身2度目となる4安打。そして5打点。倉敷の夜は八木のために用意されていた。
ここから車で数十分の岡山県玉野市に実家がある。昨年オフ、八木は「原点に返ろうと思った」と、少年時代にボールを追った近所の小さなグラウンドで練習を積んだ。海岸を走り、神社の階段を駆け上がり「初心」に立ち返った。この地にはいまなお熱く、清い思いがあった。
皮肉にも、この球場では快打を放った記憶があまりない。「岡山県営球場ではよく打ったけどね。ここでは川尻のノーヒットノーランぐらいしかいい思い出がないよ」。この試合、スタンドに親類、友人ら7人を招待していた。お世話になった人々に報いる活躍を、やっと地元で見せることが出来た。
87年にタテジマに袖を通した八木は、前回のVを知らない。「辞める前に一度、優勝したい」。悲願達成への思いは少しも衰えていない。故郷での活躍には大きな充実感がある。だがこの夜も、八木にとっては、味わったことがない歓喜をつかむまでの「一里塚」である。(岡本浩孝)
|