タイガースの長い球団史に、また新たな1ページが加わった。甲子園10連勝―。その立役者は2試合連続完投で7勝目を挙げた伊良部秀輝投手(34)だ。日本で8年ぶりとなる完封は目前で逃したが、11奪三振で1失点は「すごい」の一語。4万6千の観衆はこの夜、歴史の証人となった。
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勝:伊良部7勝
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本塁打:− |
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完投で7勝目の伊良部は「伊良部コール」に手を振って応える |
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ベンチの星野監督は怒っていた。完封できたやないか―。青筋の入った顔にそう書いてあった。だが、当の伊良部は笑っていた。九回二死。日本では8年ぶりという完封勝利を目前にして、谷繁に一発を食らった。
「勝負できる展開だったので、勝負したかった」。点差はたった2点。とても悠長なことを言える展開ではないのに、平然とそう言った。見よ、この自信。満々たる伊良部の自信が、甲子園10連勝という球団史上初の快挙をもたらした。
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6年ぶりの甲子園スタメンで移籍後初打点の先制打&V犠飛の久慈 |
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内容は決して満足できるものではない。毎回のように走者を背負い、ピンチを迎えた。9安打は日本球界復帰後、自己ワーストに並ぶ。
「良くないはずだったんだが、だんだん良くなっていったな」とは佐藤投手コーチの言葉。見守った銀傘の後押しが、記録へ向け加速させる。矢野が補足した「1点取ってから丁寧になっていった。そこら辺が(他の投手とは)違う」という方がより正確だった。
二回から七回まで、毎回奪三振。得点圏に走者を進めても、勝負どころはすべて抑えた。最終回、クルーズから10個目の三振で勝負を決めた。次打者・谷繁に痛恨の一発を浴びたが、最後は渡辺を三振に仕留め、2試合連続完投勝利。同僚のムーア、井川と並ぶ7勝目をゲットだ。
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三回、赤星がリーグタントツの25個目の盗塁を決める |
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ロッテ時代に59個。メジャーで34個。日本球界復帰となった阪神で、ここまで6個の白星を積み重ねてきた。この日の完投で、日米通算100勝目。自らの節目、球団の節目、ここまでぴたりと合えば、伝説と言っても過言ではない。
「調子は良くなかった」という星野監督も八回に伊良部を打席に立たせた。2試合連続完投で、またもリリーフ陣が休養を得る。エースの宿命。「エース?それはあなたたちが決めなさい」とそっけない指揮官が続けた。「内容を見たら分かるでしょう」。あえてぼかしたその言葉こそが、エースに対する最大の賛辞だった。
「甲子園10連勝?どう言ったらいいんですかね」。月間MVPすら、さらっとかわした男。記録の類はあまり興味がない。だから、自らの右腕で歴史を作った感慨もない。コメントも素っ気ない。伊良部にとって、あるのは今この瞬間だけ。「勝負の世界」でシビアに生きる34歳。だから誰より頼もしい。(鶴崎唯史) |