ウソや?ホンマに?最終回の攻撃を見ず、甲子園を後にしたファンに、猛省を促す―。2点差の九回、無死満塁から矢野がサヨナラ三塁打。これが、今季のタイガース。負けない。強い。横浜戦12連勝で、貯金は今季最多の「23」だ。
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横 浜 |
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阪 神 |
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3× |
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勝:川尻1勝
S:− |
本塁打:アリアス13号、金本8号 |
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九回裏無死満塁、矢野右中間にサヨナラ打を放った矢野(右は岡田コーチ) |
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逃げた、逃げた。息が上がった。両手を広げた秀太が全力疾走で追いかけてくる。決勝のホームを踏んだアリアス、陰の立役者・金本、同じ戦いに挑む仲間たち。歓喜の津波が、三塁側ファウルグラウンドで矢野をのみ込んだ。「逃げた?本能です。うれしくて、うれしくて」。総立ちで見守る4万人の観衆が、至福の時に酔った。
2点を追う九回裏、先頭の桧山が四球を選ぶと、片岡が右前打でつないだ。続くアリアスへの逆転弾への期待は、三浦からマウンドを引き継いだデニーの死球でいったん静まった。しかし直後、無死満塁から直球をたたき返した矢野の当たりは、右中間を切り裂いた。
走者一掃、逆転の3点三塁打。執念の2試合連続サヨナラ勝ちで、今季最多の貯金「23」を劇的にもぎ取った。
「ジョージ(アリアス)の時に球場の雰囲気がすごかった」。敗色濃厚になっても、ビクともしない。「間を抜けても(3人目は)帰って来れないと思った。藤本につなぐことだけ考えた」。
冷静沈着。それでいて誰よりも熱い男だ。マスク越しに見るマウンドの井川は、もがいていた。その責任を誰よりも感じていたのが矢野だ。「点の取られ方が悪かった。バッテリーが迷惑をかけていた」。ストライクゾーンの微妙な判定に主審にかみついてみせたのも、すべてはエースを乗せるためだった。
「本当にうれしかったけど、わき上がってくるうれしさはやっぱり守りの時」。投手をもり立て、本塁を守ってこその思いは常にある。だから、打のヒーローになっても、どこかぎこちない。
6月13日、右肩脱きゅうと関節唇損傷の重傷を負った浜中と、ロッカールームで顔を合わせた。痛々しい姿に、昨年、2度の故障で戦線離脱した自分の姿がダブった。「ゆっくり治せとは言えない。早く帰って来いとしか…」。無念さは痛いほど分かる。「八木さん以外では最年長の僕らが引っ張っていく」。傷の癒えた浜中が戻ってくるのは秋になるだろう。その時には、笑って出迎えてみせる。
25度目の逆転勝ちで、横浜戦12連勝。「ジョージが1発あるんじゃないか思ったけどな」という指揮官の予感は、一瞬遅れで現実となった。虎は負けない。矢野がいる。扇の要にドッカリと座る男が、首位ロードをけん引する。(船曳陽子) |