人間機関車・ザトペック。最強のマラソンランナーに例えられたのが、ミスタータイガースの故村山実氏だった。敵をなぎ倒し、次々と白星を重ねて行く。偉大な大先輩に、阪神・井川慶投手(23)も近づいた。4連続完投で10連勝。虎投では、村山氏以来35年ぶりの快挙で、60勝一番乗。マジックも「41」だ! |
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ヤクルト |
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阪 神 |
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× |
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勝:井川12勝 S:− |
本塁打:アリアス22号 |
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乾いた黒土に幾粒もの汗が、飛び散った。疲労の結晶を惜しむことなく、左腕を振るう。「5点取ってくれたから完投できた。チームのおかげです」。ハーラートップの12勝目にも会心の笑顔はない。妥協を許さない阪神の井川の姿があった。
111球の完投劇は、圧巻の投球で幕が開いた。先頭の岩村を1球で二ゴロ。続く宮本、稲葉は、連続で3球三振に仕留める。わずか7球で、初回を終わらせた。
「1球1球大事に、1球目から勝負の気持ちでいったのが良かった」
毎試合、こだわってきた球数。負担を減らすための戦いは、オフの時から始まっていた。
自主トレで故郷に戻った際、水戸商時代の監督・橋本實先生(現八郷高)のもとに足を運んだ。「良くも悪くも去年は3球勝負が多かったな」。プロ入り後、何度も悩みを打ち明けた先生の声。「相手も狙ってくる。そういう攻め方をするなら、考えてやらないと」。教え子は素直にうなずき、耳を傾けた。
長いシーズンを見越した、投球術。ヤクルトの早打ちに対して「それは1球勝負に勝ったということでしょう」と、胸を張った。
完封とはいかなかったが、4連続完投で堂々の10連勝。「村山さん?知ってますよ。偉大な方ですし、お葬式にも行きました」。阪神での2ケタ連勝は、故村山実氏が68年に記録して以来、35年ぶりの快挙だ。
優勝への近道―。マジック対象のヤクルトを倒して、マジックは2つ減って「41」。さらにセ・リーグ史上最速の60勝、そして勝率・723は101勝ペースという、記録ずくめの夜となった。
「ヒヤヒヤさせながら完投したな…ヒヤヒヤじゃないか、今年で一番のピッチングやった」。孝行息子の活躍に目を細めたのは、星野監督だ。
意外にも、今季初めてとなる甲子園のお立ち台。連勝中、一度上がるように促されたが、それを拒んだ虎のエース。
「これからも頑張りますので、よろしくお願いします」
自信を持って歓声を浴びる。1メートルに満たない舞台から周りを見渡すと、また違う景色が、そこにあった。視界は、さらに広がった。(道辻 歩)
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