猛虎のVロードに、また新たな史上最強伝説が加えられた。前夜の横浜戦連勝ストップ、ファン暴走の後遺症を吹き飛ばしたのは金本知憲外野手(35)だ。夏男が、決勝二塁打を含む猛打賞で、史上初めて4月から4カ月続けて15勝以上をマーク。03年盛夏―。虎の一投一打がますます燃えさかる。 |
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横 浜 |
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勝:久保田3勝S:安藤4勝3S |
本塁打:− |
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左手で帽子を取り、振りかざす。右手は安藤の背中をポンと一つたたいた。幾多の歴戦と苦悩を知っている“筋肉”が、わずかに緩む。銀傘に反響する絶叫と、懐かしささえ漂うお立ち台。「7月に入っていい仕事をしていなかったんで、久しぶりに勝ちにつながる仕事ができた」。金本の体が、スタンドとともに揺れた。
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先発で初勝利を挙げた久保田は必死で打球に飛びつく気迫のプレー |
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場面を知っていた。ここで決めないと、つけ入られる。同点で迎えた五回。序盤戦で崩せなかったドミンゴを相手に、二死から一、二塁の好機をつくる。気合を上乗せし、1球にかけた。初球を見逃した後、外角高めの直球に、本能のままにバットを出した。
「外の緩いボールを待っとったんや。練習しとったからな。内に来ても打てるやろし。(速球で)遅れた分、ぎりぎりライン上だったわ」。飛び出した打球は、左翼線のわずかに内側で跳ねる。一塁走者の赤星までかえる、決勝の2点適時二塁打。そして流れを引き寄せる大きな一打。二塁ベース上の男の顔を見れば、この価値も分かる。
打撃ケージの中でイメージをふくらませていた。2割8分を切った打率を上げるため、外角のボールに意識を置いた。四回の“左前”二塁打もそう。差し込まれても対応できる。「強引に引っ張って、いつも手打ちになっていたけんの」。培った経験の中で、最適のものを判断した結果だった。
イメージは、もう一つ自宅から“持ってくる”。広島時代からつけている、他球団の投手記録。プロ入り12年間で、ノートは山積されている。先発はもとより、中継ぎ陣の記録もすべて。「今は嫁の仕事になっているけどな」。裕美夫人の文字に目を走らせ、自らで場面を想像する。練習中から対戦する投手の顔を浮かべてきたからこそ、ここぞで最高の一打を奏でられるのだ。
八回の内野安打を加え、11日の巨人戦以来、8度目の猛打賞。それでも指揮官は満足できない。「まだすっきりせんやろ」。止まっていた金本の時間が、気になっていたからだ。この白星で史上初の4カ月連続15勝以上。そして優勝へのマジックは32に減った。歓喜の瞬間は日に日に迫っている。どうせなら、心からわき出す笑顔で抱き合いたい―。(鶴崎唯史)
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