元気に行ってまいります―。阪神・桧山進次郎外野手(34)が右翼席へと放った打球が、そう言っているように思えた。夏の長期ロードを目前に控えた中日戦に完勝、マジックをついに「29」とした。別れを惜しむように沸いた甲子園。今度は虎戦士の行く先々で“熱い甲子園”が現出する。 |
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中 日 |
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阪 神 |
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× |
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勝:伊良部11勝S:− |
本塁打:桧山13号 |
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魔物のすみかが、歓声に包まれる。押されるようにして、桧山はベンチから続く通路を一気に進んだ。歓声が遠ざかると、ようやくホッとひと息ついた。「いい状態で帰って来られればいいと思います」。本当の戦いが、いよいよ始まる―。長期ロードに思いをはせるように、純白のタオルを頭からかぶった。
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ほしいところで1本が出る。3点目をたたき出した矢野 |
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送り出す右翼席。旅立つ戦士は、その方向にアーチをかけた。四回、二死一塁。5点のリードを広げるべく、桧山はバットを一心に振った。カウント1―0からの2球目。真ん中に入ってきたチェンジアップをとらえた。「手応えは十分だったけど、風がどうかなと」。右から左へ強く吹く“浜風”をものともせず、白球は歓喜の中に消えていった。
ダメ押しとなる13号2ラン。「みんなに助けられて、気が楽になっていた」と感謝したのは初回のことがあったからだ。4番に座った八木、アリアス、そして矢野と適時打が並んだ中で、6番に下がった桧山だけが空振り三振。仲間に救われ、自らの集中力も高めていた矢先の一打だった。
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先制タイムリーを放った八木。4番の神様もさすがの働きだ |
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あえて、もう一度「死のロード」という言葉を使おう。阪神が背負ってきたあしき伝統がいよいよ始まる。今年も、24日の横浜戦まで甲子園を離れる。同日は計算上の最短Vデー。「今年は1戦1戦という形で戦っているので、あんまり関係ない」というヒーローも、試合前に、にんにく注射を打ってもらった。体に染み込んだ過去を消すように、じっくりとスタミナを蓄えた。
「また、その話か」。何度も耳にした言葉に、指揮官も少々うんざりする。「長期ロードといっても、半分ぐらいはロードで勝ち越しとる。山なんか、とっくに過ぎとるわ」。チームを信じているからこそ不安はない。自身の監督通算900勝にリーチをかけ、節目は堂々と敵地で迎える。
確かに不安要素はない。マジックは「29」まで減った。貯金も再び「40」の大台に乗った。そして桧山はこう付け加えた。「相手チームでも、今年は足を運んでくれるファンが多いからね」。忌み嫌う言葉など、今年は見当たらない。決意のこもったバットをそっと搬出口に置き、頼れる仲間たちとともに“我が家”を後にした。(鶴崎唯史)
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