阪神・星野仙一監督(56)の、すがすがしい笑顔だった。連敗は「4」でストップ。北の大地で手にしたロード初勝利は、自身の通算900勝目となった。「選手のお陰や」のひと言だけ。だが、この1勝には格別の思いがある。アリアスからもらった、ウイニングボールを、そっとポケットにしまい込んだ。 |
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阪 神 |
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勝:久保田4勝
S:− |
本塁打:− |
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900勝の記念のウイニングボールをアリアスに手渡される星野監督 |
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記念品に執着はない。自分の足跡は、自分の心の中だけにあればいい。アリアスが、指揮官にウイニングボールを手渡す。積み上げてきた900勝への静かな祝福。「900勝?そんなもんは選手のおかげや」。感慨は表情に出さない。それでも星野監督は、少し泥がついたボールを左ポケットにしまい込んだ。
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圧巻の5連続Kにプロ初安打。トラの窮地を久保田が救った |
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貯金もゲーム差も、たった4連敗では揺らぎようがない。それでも、開幕から2連敗以上しなかった怒とうの快進撃の反動に、ナインは動揺していた。北の大地で原点に回帰。札幌Dの電光掲示板には3試合ぶりに不動のトップ3が戻った。
1番・今岡、2番・赤星、3番・金本。「10試合くらい様子をみたい」と田淵チーフ打撃コーチが話していた、4番に金本を置く新オーダーを2試合で断念した。
それがハマる。七回一死から今岡が中前打、赤星が送って二死二塁と好機を広げ、打席は金本。カウント2―3からホルトの速球を中前へたたき返す決勝適時打。見事につながった。「何とかしよると思ったけどね」という星野監督に、金本も「何とかバットに当てようと思った」と執念の一打を振り返った。
「1、2、3番は固定だね。いいつながりだ。打順をいったん変えたから言えるよ」と田淵コーチ。上位3人の固定を基本線とした星野監督とは意見が合わず、8日の練習から9日の試合前まで議論を重ねた末の「4番・金本」だった。
それでも、出なかった結果に不満はない。この日の朝、星野監督は「オレがそれでええと言うたんやから、全部オレの責任や」と口にした。監督とチーフ打撃コーチの間には、40年近い時間をかけて培った信頼関係がある。田淵コーチは「最後まで(打順は)変えないよ」と胸を張って語った。
「900勝だって?これで(自分のことを)覚えておいてくれるやろ」と“最強の3番”金本はおどけた。しかし、指揮官にとってメモリアル勝利よりうれしかったのは、金本のバットが“死のロード”の突破口を開いてくれたことだ。
「やっとかめに(ようやく)勝ったよ」。上機嫌の時に出る名古屋弁で、星野監督は勝利の美酒に酔いしれた。「これでまた、変わるよ」。変わることで強くなってきた。虎はまた、強くなった。(船曳陽子) |