この瞬間を待ちわびてたんや!そう、星野虎が原ウサギをがぶりと丸飲みする、この瞬間を。ヒーローは文句なしに井川慶投手(24)。六回二死まで無安打の圧巻ピッチで、積年の悲願だった対巨人勝ち越しを決めた。シーズン勝ち越しも同時に達成。これを弾みに、あとはゴールへひたすら突っ走るのみ!
|
|
阪 神 |
1 |
0 |
3 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
5 |
巨 人 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
|
1 |
勝:井川15勝
S:− |
本塁打:− |
|
|
|
代打・高橋由を三振に仕留めガッツポーズの井川が15勝目 |
|
偶然じゃない。選ばれし者だから最高の舞台が巡ってくる。歴史を塗り替える「節目」に当たる。「ゲームをつくれたから良かった」。井川の言葉はいつも控えめだが、存在感は今や、セ界1。すべての因果を引き寄せるのは、むしろ必然だ。
|
|
3盗塁。自慢の快速で巨人バッテリーをかく乱した赤星 |
|
いくつもの「未来」が開かれる1戦だった。18年ぶりの巨人戦勝ち越し、シーズン勝ち越し。そして阪神の日本人先発投手では実に81年の小林繁以来となる「15勝到達」もかかっていた。それでも井川にプレッシャーなど皆無だ。逆にスタートからひるむことなく、宿敵相手に挑みかかった。
受けた野口が「気持ちが前に出ていた」と評したように、にじみ出る気迫があった。MAX144キロの速球を主体に攻め込み、六回二死まで無安打。18人目の代打・仁志に左前打を浴びて「夢」はしぼみ、七回にはペタジーニの1発で完封も逃したが、後半は変化球を巧みに交える投球にシフトチェンジ。今季7度目となる完投勝利を挙げた安定感は、やはりエースの誉れだった。
ローテの関係で、今季の巨人戦はこれが2試合目。「バッターの方があまり見てないので、有利はあったけど、何回か当たったら、研究されますよ」。どこまでも殊勝だったが、自己最多を更新する15勝目、通算40勝目がG相手というのも、持って生まれた宿命だ。
|
|
1軍昇格2試合目。4番に入った広沢も中前打で気を吐いた |
|
これで防御率は2・73。対照的に崩れた木佐貫を抜いて、リーグトップに立った。勝利数と合わせて「2冠」である。「まだ8月。9月になってから考えます」。サラリとかわした井川だが、タイトル奪取には、秘めた思いがある。
14日に投手陣だけの食事会が都内の焼き肉店で催された。そこで1人1人が、今後の抱負を述べたが、そこで井川は、「タイトルを獲れるように頑張ります」と、みんなに誓った。大黒柱の自覚。チームを、投手陣を引っ張る気概が、その胸には詰まっている。
思い返せば、開幕戦の連敗記録を昨年止めたのも、7月6日にマジック点灯させたのも井川。G戦勝ち越しには「五分だよ。去年負け越して、今年勝ち越しやろ」と、無関心の星野監督も「何か不思議なものがあるんだろうな」。必ず「区切り」を仕留める勝負運には、目を細めた。
「とにかくチームが勝てばいい」。マイペースを崩さないが、井川には、これからも虎を新たなステージに誘う、義務がある。何より、この男にはすべてを託せる「力」がある。(岡本浩孝) |