バックスクリーンだ！そして左中間最深部だ！広沢克実内野手が４１歳の常識を木っ端みじんに打ち破る“非常識弾２連発”で巨人粉砕や。厄年？引退？そんな雑音まで吹き飛ばした広沢のバット。日本一から日本最弱まで熟知する男が、悲願達成へチームを加速させる。こうなりゃ連覇も頼むデ、広沢はん！

巨　人 ０ ０ ０ ０ ０ ０ ０ ０ ０ ０ 阪　神 ２ ０ ４ ０ ４ ０ １ ０ × 11 勝：井川16勝 Ｓ：− 本塁打：広沢３、４号、アリアス26、27号

４番広沢が２発６打点。衰え知らずのパワーだ

　こういう男が、甲子園は好きだ。必ず晴れ舞台を与えてくれる。泥くさく、もがきながらも笑顔を忘れない。２年ぶりにマンモスの中でお立ち台に立った広沢は「日本シリーズで優勝したらやりましょうや」と５万１０００人に約束した。

ピンチを招くも点はやらぬ。井川も熱のこもった投球で16勝目

　０１年８月２９日、巨人戦の決勝アーチでヒーローとなった広沢は、お立ち台で「六甲おろし」を熱唱した。その時以来の巨人戦アーチで、その時以来のお立ち台。再び歌声を望む虎党の声を、あえて“拒絶”した。「優勝してからなら、そりゃいいだろうな。やろうや、みんなで」。すぐそこまで来ている夢に、思いをはせた。

　驚がくの４１歳。初回、二死一塁から４０歳の工藤の初球、１３７キロ直球をたたき返した。ポップフライに見えた打球は、何かに導かれるようにグングンと伸びてバックスクリーンへ。先制の２点弾で、エース井川を即座に援護した。

　そして三回。一死一、三塁から再び初球の直球を左中間スタンドへ。２年ぶりの２連発。五回には無死一、二塁から中前適時打。３打数３安打。巨人時代の９７年９月２６日（中日戦）以来の６打点。「オレは金本か？」。代走・沖原と交代した広沢のはしゃぐ声が通路に響いた。

負けじと２発のアリアス。不振脱出の確かな手応えをつかんだ

　しかし実は「すごい緊張感だったんだよ」。試合前の指揮官からのひと言が胸に突き刺さっていた。「具体的には言えないけど…。ダメなら終わり？それに近いことだよ」。毎年頭をかすめる“引退”の二文字。

　８月１５日に再登録されてから、ここまで６試合で打率・３１６、打点６。４番として残した数字に不満はない。それでも４１歳という現実は重くのしかかる。

　「走る、投げる、打つなら鍛えれば衰えは防げる。でも目だけは防げないんだ」。４０歳を過ぎて動体視力の衰えは顕著に感じている。「その代わり自分には経験がある。配球を読んで対応できるよ」。試合前、誰より先に室内練習場に現れ、マシンを打つ。あらがえない波と戦い続けている。

　野球というスポーツを超えた生きざまに星野監督は「たいしたもんや。あんな大勢の前で２連発できるんやから」と舌を巻いた。「必要だと呼ばれるうちが花だよ」と広沢。大輪の花でなくてもいい。風雨に負けない強さが心を打つ。（船曳陽子）