矢野が打てば負けへんって、知ってました?阪神・矢野輝弘捕手(34)が四回に放った12号ソロは、実は12戦負けなしの「不敗弾」だったんです。五回には「雨中の5連打」を締める適時三塁打。頼もしい男の復活で甲子園40勝、今季75勝目であの1985年を超えました。夏休み最後の31日もいい思い出を―。 |
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ヤクルト |
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阪 神 |
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× |
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勝:久保田5勝
S:− |
本塁打:早川2号、矢野12号 |
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矢野が虹を描けばトラは不敗。攻守の要は決めてくれる |
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雨雲を切り裂いた白球のせん光は、なんて美しいのだろう。お立ち台に上がった矢野の背後に、くっきりと残っている感さえあった。
「ヒットもなかなか出なかったから、入るとは思わなかった。気持ちばかり焦っていた」。忘れていた感触。チームから一足遅れ、ようやく“死のロード”が終わりを告げた。
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早川が連夜のバックスクリーン弾。開花した男は止まらない |
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先頭で登場した四回だった。1点返されたムードを一気に吹き飛ばす一撃。交代したばかりの2番手・佐藤秀を打ち砕いた。127キロのフォークに合わせると、打球は歓声に引き寄せられるように左翼席へ。打てばチームは負けないという、不敗弾だ。
「すっかり忘れていた」とは本音だろう。実に7月18日の広島戦以来となる12号アーチ。その間、チームとともに苦しんだ。4勝11敗と大きく負け越したロード中は、左わき腹痛、その後左手甲まで負傷し、スタメンとベンチを行き来した。本拠地に戻ってからも、3試合でわずかに1安打。巧みなバットコントロールも影を潜めていた。
完治したとは言い切れない。「言い訳にしたくない」という男の左手には、人前に現れるとき常にタオルが握られていた。その下に隠された、何重ものテーピングが真実。それだけに、この日のアーチを「きっかけになれば」と位置づけた。
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11奪三振の力投で5勝目を挙げた久保田にジェット風船も後押し |
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ベンチの“指定席”に降り込む雨に打たれながら、戦況を見守った星野監督が振り返る。「いまさら痛いの、かゆいのと言っとったらいかん」。気持ちは十分に分かっている。だからこそ闘将も喜んだ。五回、赤星から始まった「雨中の5連打」の最後を、矢野が三塁打で締めた。前回Vの85年を超える、75勝目を手繰り寄せた4点のビッグイニングだった。
マジックもこれで12。「最初は49もあったから実感もなかったけど、もうすぐ一ケタ。実感がわいてくる」と目前に迫った胴上げが、瞳の中に映っていた。気掛かりは、同じ苦しみを戦った仲間の存在だ。
「みんなも早く帰ってきてほしい。一番いい状態で優勝したい」。お立ち台の背後、約3キロ先には鳴尾浜がある。離脱した藪も、ムーアも、桧山もいる。ラストスパートに入ったV戦線。待っている―。試合後、雨の上がった銀傘に矢野の心の叫びがこだましていた。(鶴崎唯史) |