阪神・片岡篤史内野手(34)が、怒った。目の前で3番・金本が敬遠される。なめるなよ!七回、右中間を破る逆転の2点二塁打。ど派手なガッツポーズとともに、マジックは2つ減って「7」に。巨人が勝って、最短7日の甲子園胴上げは消えたが、落ち込むことはない。優勝は、もうすぐだ。 |
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阪 神 |
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勝:石毛1勝 S:ウィリアムス24S |
本塁打:秀太1号、アリアス31号 |
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さすが4番。逆転の2塁打を放った片岡はゲームセットに満面の笑み |
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バットを見つめて、静かにその時を待った。燃えるものを内に押し殺し、何度も素振りを繰り返した。そして、その数分後、片岡の神髄を見ることになる。ドラマが生まれた。
1点を追う七回だった。二死二塁から金本が、敬遠される。それをじっと見つめた。「久しぶりに敬遠された。とにかく気合で負けないようにして、打席に向かった」。4番の意地―。誰よりも責任感の強い男が、重苦しい空気を一掃する。
暴投もあり、二、三塁とさらにチャンスは広がった。そしてカウント2―2から玉木の投じた変化球を一閃(いっせん)した。一直線に伸びた打球は、右中間へ。打球の行方を見つめ、そして懸命に走る。同点、そして逆転。二塁に到達した片岡は右拳を強く握りしめ、吠(ほ)えた。言葉にならない熱いものを吐き出した。
「中継ぎが頑張ってくれていたし、みんなの勝利。僕の場合、借りが多い。少しずつそれを返していくだけです」
34歳になった。ベテランと呼ばれる域に達している。それでも、泥にまみれることをいとわない。その姿を、チームを引っ張る矢野は「片岡が、ベテランでもあれだけ頑張ってくれてるから、やらないといけないと思う」と話す。
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ついに目標の53盗塁。虎の快速王・赤星は止まることを知らない |
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甲子園での試合後。室内練習場で打ち込んだ後、星の輝く空を見つめて、ふとつぶやいた。「…闘ってるっていうのかな…」。目の前の投手だけが相手ではない。見えない重圧。責任。そして、ファンの期待―。それに応える義務がある。
夢へとつながる一振り。「ツル(片岡)がよくひっくり返してくれた。入ったと思ったと言うとったから、バカヤローと言った。こっちは抜けてくれ、抜けてくれと思った」と星野監督は振り返った。
巨人が勝ったこともあり、7日の甲子園での胴上げはなくなった。それでも、確実にその時は近づいている。
大歓声に彩られたレフトスタンド沿いを歩く。「マジックとか、そういう中で、プレーできるのは幸せ」。わずかに笑みを浮かべて、帽子を取り、応える。ゴールのテープは、すぐそこまで見えている。カウントダウンは、加速する。マジックは一気に2つ減って「7」に。戦いの日々は、もうすぐ、一つの区切りを迎え、心から笑えることができる。(道辻 歩) |