夢が、バックスクリーンへ届いた。阪神・矢野輝弘捕手(34)が叫ぶ。「ヨッシャーァ!」。優勝をたぐり寄せる逆転サヨナラの13号2ラン。左わき腹痛の桧山も帰って来た。“歓喜の瞬間”の予行演習で、M6に。矢野は、高らかに言った。「ファンの皆さんも、大いに喜んで下さい」―。 |
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横 浜 |
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阪 神 |
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勝:リガン3勝S:− |
本塁打:矢野13号 |
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さすが矢野だ。逆転サヨナラ弾に大ジャンプでホームイン |
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「頼む、入ってくれ…」
今にも失速しそうな打球を何度も励ましながら、矢野は一塁へと駆けた。やがて背走する金城が、フェンスの前で立ち止まる。「頼むから入ってくれ…」。もう1度励ますと、打球は中堅フェンス後方の通路に落ちた。
逆転サヨナラ2ラン。全身で喜びを表現する矢野。チームメートが作る歓喜の輪の中に飛び込むと、そこにはサヨナラのホームがあった。
九回一死から、戦線復帰したばかりの桧山が右前打で出塁。この走者を無駄にするわけにはいかない。鬼気迫る表情で打席に立った。1―1から、ギャラードが投じた直球は、ほぼ真ん中。これを見逃す矢野ではない。無意識のうちに、全身がうねっていた。
「イヤな雰囲気だったんで、何とかしたいなと…。その気持ちが、ホームランになりました。もう何が何だか分からん状態ですね」。
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貫録のタイムリー2本。“夏男”金本の進撃は止まらない |
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止まらない両手の震え。常に冷静さを失わない要の男が、今季初めて歓喜に身をゆだねた。
自分のためにバットを振ったことなど、ただの1度もない。「結果的には、自分のためになってるかもしれないけど、チャンスで1本打てれば、それだけで価値があると思うんです」。自分はかっこ悪くてもいい。チームが勝てばそれでいい。その一心で振り抜いたバットが、劇弾をもたらした。
「放り込んだれって言うてたら、ホンマに放り込みよった」と星野監督。矢野の後ろで、指揮官も打球に向かって叫んでいた。
8月6日のヤクルト戦後、腰と背中の張りが限界に達した。さらに、21日の中日戦では左手甲を負傷。矢野の苦しみは、指揮官が一番分かっていた。それでもこの夜の劇弾は、矢野の全快を告げる復活の一撃。「あれだけ打球が伸びたら、もう手も大丈夫やろ。もう最後まで行ってもらいます」と、6日以降のスタメンマスクを明言した。
マジックは1つ減って6になった。最短日は変わらず9日で、早ければ神宮でのヤクルト戦で、Vシナリオが完結する。「あともう少し。ファンの皆さん、大いに喜んで下さい」。矢野の雄叫びに、ゴールテープがなびく。さあ、あと少し。悲願の優勝は、もう目の前だ。(松下雄一郎) |