舞った。母と妻が見守る夜空に向かって―。星野仙一監督(56)率いる阪神タイガースが15日、18年ぶり4度目のリーグ優勝を決めた。甲子園で広島に3―2でサヨナラ勝ちし、ヤクルトも敗れたためVが決定。10月18日からパ・リーグ本拠地で開幕する日本シリーズで、パ優勝チームと日本一をかけて戦う。 |
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広 島 |
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阪 神 |
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1× |
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勝:安藤5勝 S:− |
本塁打:片岡11号 |
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18年ぶりにセ・リーグ優勝を決めた阪神。星野監督が宙に舞った |
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唇が震えた。涙が込み上げてくる。
まだ泣くな。
まだ早い。
マウンドへ飛び出す選手たちの背中が、かすんでいった。
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優勝を決めるサヨナラ打を放った赤星を星野監督はグッと抱きしめた |
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ベンチの階段を上がる足が震える。見上げれば島野ヘッドの顔。もう我慢できない。崩れるように抱きついた。
ゆっくりと、ゆっくりと、星野監督は選手たちのもとへ歩いた。両手を上げた。さあ、オレの体を宙へ放り投げてくれ。ぎこちなくてもいい。格好悪くてもいい。喜びのまま、思い切り放り投げてくれ。
1回、2回、3回…そして7回。19時34分、5万3000大観衆の掛け声とともに、闘将が夜空へ舞った。過去の屈辱は、今この瞬間に夜空の流星となって消えた。
ヤクルトの敗戦を待っての胴上げ。2時間前、赤星のサヨナラ打で広島戦の勝利を決めた本拠地・甲子園で、18年ぶりのリーグ制覇は決した
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闘将を支えた名参謀。島野ヘッドの手には星野監督の夫人の遺影が… |
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深い悲しみをこらえていた。13日、ナゴヤドームでの中日戦の試合中、母が逝った。父親の顔を知らない自分を、女手ひとつで育ててくれた母だった。14日の試合後に駆けつけたが、この日、午前11時からの葬儀には参列しなかった。母がそうしろと言っていた。
2001年オフ、中日の退団決定直後に舞い込んだ阪神監督就任要請。ほとんどの知人が反対した。背中を押してくれたのは、妻だった。
「パパの人生なんだから、またユニホームを着るもよし、着ないのもよし。でもパパは野球が好きなんでしょ」
目の前には2人の娘が立っていた。「声も話し方も、言うことまでそっくりなんや。まるで女房がそう言うてるみたいやったなあ」。妻を思い出すと、両目は涙でいっぱいになる。悲しくなれば、いつも子供たちが救ってくれた。「女房は他人でしょ。娘は血がつながってるのよ」。笑顔もカミさんそっくりだ。
名古屋市内の霊園に、扶沙子夫人は眠る。阪神入りを決断した後、墓前に立った。「一緒に行けなくてゴメンね」。妻は謝っていた。数週間後、墓に花を供えた男がいる。名参謀・島野育夫。「日本一の男にしてきます」。生前の夫人との約束だ。親族に交じってお骨を拾いながら、そう固く誓った。
宙に舞う夫を、妻は見つめていた。ベンチ前で平田広報が涙を流しながら遺影を持っていた。インタビュー中、妻は島野ヘッドの手の中に移された。夫が妻の姿を見つけたのは、お立ち台を降りてから。気付いた瞬間、目頭を押さえた。
タテジマにそでを通して本当によかった。
母よ、妻よ、ありがとう。
2003年9月15日。夢に日付が刻まれた。(岩田卓士) |