侍・村上が果たした大親友との“男の約束” 怒られるまで2人で練習「プロで必ず恩返し」
いよいよ開幕した第5回WBCで2009年大会以来の優勝を目指す侍ジャパン。日本代表に名を連ねた選手たちの原点、素顔に迫る「侍外伝」の第5回は、ヤクルト・村上宗隆内野手(23)だ。唯一無二の大親友、九州学院高時代の1年先輩・松野謙信さんが初めて取材に応じ、思い出の高校2年間を初公開。男の約束が明かされた。
仲良くなるまでに、時間はかからなかった。年齢の違いを越えた絆がある。松野さんは村上との思い出を振り返ると、小さく笑った。「練習付き合わされた記憶しかないですよ。一番言い合いもした相手だと思います」。誰もいない練習場に2人。バットを振る音だけが思い出に色濃く刻まれている。
共に通学だった学生時代。限られた時間の中で猛練習に取り組んできた。「永遠にティーを上げていましたね。僕は練習があまり得意じゃなかったので、サポート役でした」。来る日も、来る日も全体練習後に約1時間打ち込んだ。
泊まり込みの合宿の時は、普段限られている練習時間が“開放”される。当時の平井部長から「もう上がれ!!」と怒られた夜も、今では笑い話だ。そんな日々を過ごす中、ある時、村上が汗をぬぐいながら真っすぐに言った。「ありがとう。いつかプロに行って、必ず恩返しするから」。生意気で、でも常に謙虚。男の約束だった。
甲子園を目指し、駆け抜けた高校時代。同じ捕手だったため一緒に行動する時間がとにかく多かった。小さなケンカは日常。だが、日課の居残り練習を2人でしていたある春、村上がいつもとは違う目で真剣に怒ったという。「こんなんじゃ、無理じゃん。勝てるもんも勝てない」。当時3年生だった松野さんの代はレギュラー争いが熾烈。「悪く言うと、足を引っ張り合っていましたね」と振り返った。
主将だった松野さんに直訴したのは、大きな話し合いの場。「ミーティングしようよ」の一言でチームは少しずつ動き出し、「勝ちへの執着。そこから意識が変わりました。偵察班に回るよ、とか。ベンチ外のメンバーがまとまりました。ムネのおかげですね」と感謝の思いは尽きない。
2人で出場した最初で最後の試合がある。村上が肩痛を訴えて、先発出場を回避。「熊本第一戦か、第二戦か。どっちかで、僕が初めて試合のマスクをかぶったんです」。その試合で安打を放ち、ベンチを見ると最前列に村上がいた。「想像通りですよ。超喜んでくれていました」と懐かしんだ。
そして運命のドラフト当日。「選ばれていなかったらどうしよう…」と言う村上を電話でギリギリまで励まし続けた。ドラフト1位でプロの世界へ。夜には電話が鳴った。「謙信が夜遅くまでやってくれたからだね。やっと恩返しできるわ」。果たされた約束があり、それは今もなお続く2人だけの約束。初めて作られたグッズに、真っ先に入れてもらったサインは宝物だ。
「信じられない。一緒にプレーしていたムネがジャパンですよ」。喜びが表情からあふれ出ると、「ムネのユニホーム…いや、大谷選手がいいな」とちゃめっ気たっぷりに笑った。エールとともに披露した後輩の武勇伝。「僕の地元にあるラーメン屋で、『替え玉7杯』。高校1年生の時です。これはいまだに破られていない記録ですよ」-。