高橋引退…4年後「今の僕には不可能」
フィギュアスケート男子の2010年バンクーバー冬季五輪銅メダリストの高橋大輔(28)=関大大学院=が14日、岡山市内で記者会見を行い、現役引退を表明した。2008年の右膝前十字靱帯(じんたい)断裂の大けがを乗り越え、冬季五輪に日本フィギュア史上初の3大会連続出場。五輪のメダル、世界選手権制覇と数々の偉業を打ち立てた日本のエースが大きな決断を下した。
全てを懸けてソチの銀盤を舞ったあの日からちょうど8カ月。多くの人を魅了し続けた高橋が、氷の戦場から退くことを決断した。
「(復帰の)気持ちを少しでも残しておくことで、次に進みにくいと感じた自分がいた。ひと区切りつけてから次に進んでいく方がいいと思った」。眼鏡にダークスーツ、青いストライプのネクタイ姿。約200人の報道陣を前に、高橋の表情は晴れやかだった。
8歳で初めてリンクに立って以来「目標が次から次に出てきた」。だから、高橋は立ち止まるすべを知らなかった。男子フィギュアを大きくしたい。そのためにも成績を出したい。そして何より、滑ることが好きだったから、毎日リンクへと向かった。情熱を傾ける先は「スケートしかなかった」。
集大成と挑んだ今年2月のソチ五輪は6位。3月の世界選手権はけがで欠場した。8月のアイスショーを終え、時間に余裕ができると、目指す場所が見えない戸惑いが生まれた。心にできた小さなわだかまりは、気付けば徐々に大きくなっていた。3度の五輪を経て“4年”の長さも難しさも理解していた。
もう一度頑張れるかと自身へ問うた時、出てきた答えは「今の僕には不可能」。そして9月半ば、周囲に今後のことを話すうちに意志は固まった。
スッキリした。その思いが強いから、自然と笑顔があふれた。今後については、早期のプロや指導者への転身は否定したが「自分の中で次に目標ができたわけでもないし、これから考えたいと思っている」と話した。
バンクーバー五輪の銅メダル、世界選手権制覇‐。スケートを愛した男が生んだ功績が消えることはない。だからこれから、一歩引いた日々の中でその愛を確かめる。そして高橋の心に確信が生まれた時、どんな形であれきっと銀盤の世界へ帰ってくる。