吉田、世界選手権V13&200連勝
「レスリング・世界選手権」(9日、ラスベガス)
世界のサオリは永久に負けない。レスリング女子の吉田沙保里(32)=ALSOK=が53キロ級で、連覇を13に伸ばした。五輪と合わせて16大会連続の世界一。昨年3月に亡くなった父栄勝さん(享年61)の遺影が観客席から見守る中、来年のリオデジャネイロ五輪代表に事実上決定。人類史上最強の女子は涙が乾いた後、力強く五輪4連覇を誓った。
涙が止まらない。世界最強の吉田が、感極まった。決勝で3大会連続の顔合わせとなったソフィア・マットソン(スウェーデン)を2-1の判定で下し、五輪、世界選手権で実に16度目の世界一。この日5勝を上乗せし、個人戦の連勝は200の大台に達した。「本当に苦しかった」と声を震わせた。
決勝は第2ピリオドに2度押し出して2-1とリードしたが、終盤はタックルを封じられ劣勢に。「負けるかも」と弱気になった時、数十分早く48キロ級で優勝を決めた登坂(とうさか)の奮闘が頭をよぎった。
一緒に練習する10歳下の後輩は、敗色濃厚だった終盤に劇的な逆転勝利を収めた。「最後まで諦めるな」とマットに送り出した先輩として「負けたらいけない」。組み手を駆使し、猛反撃を何とかしのいだ。
勝ち続けるプレッシャーは想像を絶する。「追われる立場はきつい」と漏らす。全てをぶつけてくるライバルたちの脅威とともに、自分の背中を追ってきた後輩の成長ぶりも確認し「長い間レスリングをやっている。年齢を感じる」との言葉に実感がこもった。
圧勝ではなかったが「とにかく勝てばいい」という執念と、戦況に対応できる円熟の技を示した。来年の五輪も楽観はできない。「危機感はある。4連覇に向け、もっと頑張らないといけない」と表情を引き締めた。
幼少の頃から父の指導の下で力を伸ばした。2012年ロンドン五輪で3連覇を達成した際には、父を肩車してマットを1周した。生前にリオデジャネイロ五輪での金メダルも約束していた。
準決勝を突破すると、観客席へ出向き、まずは五輪代表が事実上決まったことを父へ報告。そして「最後まで頑張ってくるよ」と語りかけた。
「リオに行くのが家族の夢。父はいつも上から見てくれていると思う。絶対に4連覇を達成する」。レスリングが強いだけではない。リオでも、その比類なき、精神力の強さが最大の武器となる。