琴奨菊語る日本力士が勝てなかった理由
大相撲の大関琴奨菊が1月の初場所で日本出身力士として2006年初場所の栃東(現玉ノ井親方)以来10年ぶりの優勝を果たした。その間、朝青龍(引退)、白鵬、日馬富士、鶴竜らモンゴル勢が賜杯をほぼ独占してきた。
では、なぜモンゴル勢が優勝を重ね、日本出身力士は勝てなかったのか。この10年、折りに触れて話題になってきた疑問に、先日、都内の日本記者クラブで行われた記者会見の席で、琴奨菊が自身の見解を語った。その時の質問は「なぜ日本人がなかなか結果を出せないのか」-。
「私たちは相撲道という道の部分で、変化をせず力と力の勝負とか、そういう固定観念がありすぎなのかなと思う。やはり勝負の世界は勝たないと意味がないし、そういうところにもっと貪欲さが足りないのかと。また、横綱でも、変化まではいきませんが、立ち合いで相手の間合いをずらしたりとか、そういうところを見習っていかないといけない」
もちろん相撲人気のV字回復はモンゴル勢の頑張りがあったからであり、彼らの中にも相撲道を理解している力士はいる。さらにこの国際化時代。モンゴル人も日本人も国技を守る力士に変わりはない。それを前提とした上で考えても、確かにモンゴル勢は勝ちにこだわる。
大横綱の白鵬でさえも、合口が悪い相手には変化に近い立ち合いをすることがある。例えば、昨年九州場所の栃煌山戦では奇手・猫だましを繰り出し、初場所の栃煌山戦でも、立ち合い直後に手のひらを相手の顔の前に突き出すような動きで白星を手にした。まさになりふり構わずといったところだが、勝負の世界は勝てば官軍という面もある。
琴奨菊は続けて、自分が優勝できた要因として、この白鵬らの勝負へのこだわりを学び、生かしたことを挙げた。
「今回、私は逆にそういうところを見習って、張り差しとか、相手の軸をずらすとか、ちょっと引いて相手の軸を前にずらしながら下から入るとか、そういうところも考えてやった結果なので、なぜ(白鵬らモンゴル勢が)強いか分かったような気がします」
相撲道か勝利優先か。もちろん、ベストは相撲道を守りつつ優勝することなのだろうが、体に恵まれない日本人力士には限界がある。変化や相手をじらすような立ち合い、猫だましのような奇手は、相撲道からは外れるから自粛すべきという考えは尊い。だが、違う価値観を持った相手が上位にいる以上は、琴奨菊のようにプラス面は取り入れて、勝利への突破口を開くことも大切なのではないか。
スキージャンプには遠くへ飛ぶ以外に飛躍姿勢の美しさを採点する飛型点があるが、相撲では取り口の美しさや潔さに点数をつけてはくれない(もちろん、見る人の心は点数をつけてくれるが)。そして、琴奨菊のように優勝すれば、日本全国が沸き、相撲への注目、人気が沸騰する。ファンもごひいきの力士が負ける姿よりも勝つ姿を見たいはず。今年は勝てる和製力士を数多く見たい。(デイリースポーツ・松本一之)